『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
誰も反論しなかった。

できなかったのだと思う。

証拠が一つなら。

偶然と言えたかもしれない。

二つなら。

知らなかったと言えたかもしれない。

けれど。

十二年分。

国内外。

紙。

電子記録。

送金履歴。

通信記録。

登記。

そしてDNA。

逃げ道など。

最初から残されていなかった。

父が立ち上がった。

「この資料一式は、すでに必要な手続きへ進めている」

早紀子が父を見る。

「宏輝さん……」

「私に頼むな」

「お願い、話を――」

「話す時間なら十五年あった」

その言葉が胸に刺さった。

「綾乃が傷つけられていた十五年間に」

父は早紀子を見据えた。

「お前には何度でも話す機会があった」

「私は……」

「慎二が一人で真実を探していた十二年間にも」

慎二が目を伏せる。

「機会はあった」

父の声が震えた。

「それでも、お前は何も言わなかった」

早紀子から言葉が消えた。

父は蘭を見る。

「蘭」

蘭がびくりとする。

「お前が私の実の娘ではなかったとしても、一緒に過ごした時間まで消えるわけではない」

蘭の瞳から涙が落ちた。

「だけど」

父の声は厳しかった。

「それと、お前がしたことは別だ」

蘭が俯く。

「責任は、自分で取れ」

「……はい」

かすかな声だった。

私はその横顔を見つめた。

許せるのか。

そう聞かれても、今の私には分からない。

きっと。

簡単に許せることではない。

忘れることなんて、もっとできない。

けれど。

それを今日決める必要もないのだと思った。

私はもう。

誰かのために、自分の気持ちを急いで決めなくてもいい。

真崎が端末を閉じた。

「以上です」

慎二もパソコンを閉じる。

「十二年分。全部」

充さんが腕を組む。

「長かったですね」

「誰のせいだと思ってんの」

「でも全部辿り着いたでしょう?」

「途中でヒントじゃなく答え送れよ」

「それじゃ証拠能力の整理ができない」

「だったらせめて説明書つけろ」

「慎二」

真崎が止める。

「何」

「あとでやれ」

「……はい」

充さんが笑った。

「本当に、随分いい師弟ですね」

「だから違います」

また即答。

今度は。

私も小さく笑った。

張りつめていたものが。

ほんの少しだけ緩んだ。

母が私のところへ来る。

「綾乃」

「ママ……」

ぎゅっと抱きしめられた。

懐かしい匂いがした。

子どもの頃。

まだ何も壊れていなかった頃。

何度も包まれた腕。

「よく頑張ったわね」

その一言で。

危なかった。

泣きそうになった。

でも私は首を振った。

「私だけじゃないよ」

遼河さんを見る。

慎二を見る。

父。

真崎。

ジュリアン。

充さん。

トーマス。

ここにいる人たち。

「みんながいたから」

母が微笑んだ。

「そうね」

私は遼河さんへ視線を戻した。

彼も私を見ている。

目が合った。

そして。

思い出した。

まだ一つ。

終わっていないことがある。

いや。

違う。

これは終わりじゃない。

始まりだ。

私は遼河さんの袖を軽く引いた。

「遼河さん」

「ああ」

ちゃんと分かっていたらしい。

彼が立ち上がった。

「最後に一つあります」

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