『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

第十五話――晴れ、ときどき青天の霹靂。幸せって、こんなに騒がしいの?――

あの騒動から、二週間と少しが過ぎたある日。

父から突然、連絡が入った。

『今度の日曜、遼河君と二人で実家へ来なさい』

それだけ。

理由を聞いても、

『来れば分かる』

の一言で終わった。

――いや。

絶対、何かあるでしょ。

そう思ったところで、父がそれ以上教えてくれるはずもなく。

結局私は今、遼河さんの運転する車の助手席で、久しぶりに鷹宮の実家へ向かっていた。

窓の外を、休日の東京が流れていく。

雲ひとつない青空。

信号待ちの人たち。

歩道を走る子ども。

カフェのテラスで笑っている人たち。

あの日。

あの大会議室で何十年分もの秘密がひっくり返ったなんて、今の景色を見ているだけでは到底想像できない。

そして。

その翌日から始まったのは――。

ある意味、あの日以上の騒ぎだった。

「……すごかったなぁ」

思わず口から零れた。

運転席の遼河さんが、ちらりとこちらを見る。

「何がだ」

「この二週間」

「ああ」

たったそれだけで通じたらしい。

遼河さんの眉間に、うっすら皺が寄る。

私は思い出しただけで、少し遠い目になった。

あの日。

大会議室の出口で、勢いに任せて妊娠を発表した。

そこまではよかった。

……いや。

遼河さん曰く、よくはなかったらしいけれど。

問題は、そのあとだった。

母からは何度も電話が来た。

『ちゃんと食べてる?』

『無理してない?』

『葉酸は?』

『遼河君、ちゃんと見てるでしょうね?』

父からも来た。

慎二からも来た。

トーマスからも来た。

しまいにはジュリアンまで、

『Ayano、仕事の調整について一度きちんと話しましょう』

と、妙に真剣な顔で言い出した。

そして。

一週間後。

今度は藤和家への挨拶だった。

普通なら。

私と遼河さんが二人で伺って、もっとこう――。

結婚の報告をして。

両家で改まって話をして。

今後について相談して。

静かに進んでいくものだと思っていた。

ところが実際は――。

父、宏輝。

母、真悠子。

トーマス。

慎二。

そして私と遼河さん。

……大所帯。

「今思い出しても、あれって結婚の挨拶だったのかな」

「俺に聞くな」

「だって、ほぼ報告会だったじゃん」

一連の騒動の経緯。

家族関係。

事件のこと。

妊娠のこと。

これからのこと。

全部まとめて説明することになり。

気づけば、結婚の挨拶というより親族会議のようになっていた。

それでも。

不思議なことに、最後にはすべて綺麗に収まった。

――ただし。

一つだけ。

いや。

一つどころではない気もするけれど。

最初の青天の霹靂は、あの日だった。

「まさか、その日に入籍することになるとは思わなかった」

私が呟くと。

遼河さんが淡々と答えた。

「俺もだ」

「婚姻届まで用意されてると思う?」

「普通は思わない」

そう。

両家の話がまとまった直後。

父と藤和家のご両親が、なぜか揃って言ったのだ。

『なら、今日出しなさい』

選択肢はなかった。

本当に。

なかった。

気づけば婚姻届へ署名し。

その日のうちに提出することになり。

私は――。

鷹宮綾乃から。

藤和綾乃になった。

あまりにも怒涛すぎて、届けを出したあともしばらく実感が湧かなかった。

夫。

妻。

結婚。

どれも自分のことなのに、妙に遠い言葉に聞こえて。

帰りの車の中で何度も、

「私、結婚したんだよね?」

と遼河さんに確認したくらいだ。

「人生って、もっとこう……段階を踏むものだと思ってた」

「お前が言うな」

「何で?」

遼河さんが一瞬だけこちらを見る。

「大会議室で突然、妊娠を発表した人間が何を言ってる」

「それとこれは別でしょう」

「同じだ」

「違うよ」

「同じだ」

「……遼河さん、最近ちょっと強くなったよね」

「誰のせいだと思ってる」

知らない。

私は何も聞かなかったことにして、再び窓の外へ視線を戻した。

今は。

もともと私が暮らしていたマンションに、遼河さんが移り住んでいる。

正確には。

着替え。

仕事道具。

パソコン。

本。

その他諸々が日に日に増えていき。

気づいた時には、完全に生活の拠点が移っていた。

最初はクローゼットの端だけだった。

それが、いつの間にか半分になり。

気づけば洗面台にも遼河さんの物が並び。

冷蔵庫の中身まで二人仕様になった。

――生活って、こうやって混ざっていくんだ。

少し不思議だった。

でも。

嫌じゃなかった。

新居をどうするのかは、これから。

子どもが生まれることを考えれば、今の家でも暮らせないことはない。

けれど遼河さんは、すでに何か考えているらしく。

聞いても教えてくれない。

――絶対、何か企んでる。

まあ。

それは後で問い詰めればいいとして。

今日の問題は。

父だ。

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