『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
***

玄関を上がり、慎二のあとについてリビングへ向かう。

扉を開けた瞬間。

私は足を止めた。

「……え?」

いる。

思っていたより、ずっといる。

ソファには父。

その隣に、母とトーマス。

向かいには充さん。

少し離れたところには、真崎さんとジュリアンまで座っていた。

「何、この集まり」

思わず口から出た。

遼河さんが隣で室内を見回す。

「全員って、こういう意味か」

「そういう意味」

慎二が何でもないように答える。

「聞いてないんだけど」

「言ってないから」

「慎ちゃん」

「俺に怒らないでよ。父さんが黙っとけって言ったんだから」

視線を父へ向ける。

父は悪びれる様子もなく、テーブルの前を示した。

「まず座りなさい」

「……その言い方、絶対何かある」

「いいから座りなさい」

やっぱり。

何かある。

私は遼河さんと顔を見合わせてから、空いているソファへ腰を下ろした。

遼河さんも隣へ座る。

目の前のテーブルには、何冊ものファイル。

封筒。

書類。

その時点で、嫌な予感しかしない。

――たぶん。

事件の話だ。

ようやく、ある程度の処理の見通しが立った。

だから今日。

父は私を呼んだのだろう。

そしてきっと。

謝罪とか。

後悔とか。

これからどうするかとか。

そんな話になるのだと思っていた。

正直。

少しだけ覚悟もしていた。

もう責めたいわけではない。

でも、全部を「いいよ」で済ませることもできない。

過去は消えない。

だから。

どんな顔で話を聞けばいいんだろう。

そんなことを考えていると。

父が一冊目のファイルを開いた。

「まず、報告しておく」

「……うん」

私は僅かに姿勢を正した。

父は淡々と言った。

「早紀子との離婚は成立した」

「……」

一拍。

「え?」

始まりが、思っていたのと全然違った。

「必要な手続きは済ませた。財産関係については、引き続き弁護士を通して整理している」

「ちょっと待って」

早い。

覚悟していた方向と違いすぎる。

「それから蘭についても、戸籍上の親子関係を含め、今後どう整理するか弁護士を通して手続きを進めている」

私は瞬きをした。

「……そこまで、もう?」

「ああ」

父は一切迷わなかった。

「DNA鑑定の結果だけで簡単に終わる話ではない。二十六年間、親子として記録されてきた事実もある。必要な確認をしながら進める」

蘭。

二十六年間。

父の娘として生きてきた。

血が繋がっていなかったからといって、その時間まで消えるわけではない。

けれど。

戸籍上の関係をどうするのか。

これから蘭自身がどう生きるのか。

避けて通ることのできない問題だった。

「蘭は……?」

私が聞くと、父の表情が僅かに曇った。

「今は弁護士を通して必要な対応をしている」

それ以上は言わなかった。

たぶん。

まだ簡単に言葉にできる段階ではないのだろう。

そこで充さんが口を開いた。

「母も、直政とは離婚することになりました」

「志織さんも?」

「はい」

充さんは静かに頷く。

「本人が決めました。手続きも進めています」

その顔に、迷いはなかった。

「長い間、夫婦としてはもう壊れていたようなものですから」

「……そっか」

「ただ」

充さんの目が少しだけ柔らかくなる。

「俺と母の関係は変わりません」

私は思わず笑った。

「うん。それがいいと思う」

血が繋がっていない。

だから何だ。

志織さんが充さんを息子だと思い。

充さんが志織さんを母親だと思っている。

それなら。

もう、それでいいのだと思う。

家族って。

血だけで決まるものじゃない。

私はそれを、この十五年で嫌というほど知った。

< 139 / 162 >

この作品をシェア

pagetop