『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
「それから」

父が次の書類へ目を落とす。

「長谷川議員の件は、知っているな」

「それはさすがに」

私は苦笑した。

知らない方が難しい。

テレビ。

ネットニュース。

週刊誌。

連日、その名前を見ない日はなかった。

政治団体をめぐる不透明な資金。

行政情報の漏洩。

複数企業への便宜供与。

疑惑は一つでは終わらず。

日を追うごとに、次々と新しい事実が報じられていた。

母が小さく息を吐く。

「もうニュースがそればっかりだものね」

「うん」

「私の名前まで出るんじゃないかと思って、最初はテレビ消してたわ」

「お母様、何もしてないじゃん」

「分かってても嫌なのよ」

それは分かる。

トーマスが母の肩をぽんと叩いた。

「Mayuko is fine now」

「分かってるわよ」

そう言いながら、母は少し笑った。

父は話を続ける。

「武村興業と河崎テクノサービスについては、事実上、今の形での事業継続は難しい」

私は顔を上げた。

「倒産するの?」

「法的整理へ向けて動いている」

父は頷いた。

「ただし」

そこで遼河さんを見る。

遼河さんが代わりに口を開いた。

「会社が潰れることと、そこで働いていた人間まで路頭に迷わせることは別だ」

「あ……」

「不正に関わっていない従業員については、可能な限り雇用を引き継ぐ」

ジュリアンも続ける。

「継続可能な事業についても精査したうえで、藤和側と鷹宮側で受け皿を用意します」

「二つの会社を?」

「会社そのものを、そのまま引き受けるわけではありません」

ジュリアンは丁寧に説明した。

「問題のある経営陣や、不正によって生じた負債や取引まで抱える必要はありませんから。必要な事業と人材を切り分け、適切な手続きを踏んで引き継ぎます」

私は小さく息を吐いた。

「よかった……」

何も知らず。

普通に働いていただけの人まで、突然すべてを失う。

それだけは、どうしても嫌だった。

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