『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
遼河さんが横から言う。

「お前が気にすると思った」

「……分かってたの?」

「ああ」

「いつから?」

「最初から」

やっぱり。

こういうところは敵わない。

「それで」

今度は充さんが少しだけ姿勢を変えた。

「俺なんですが」

「うん」

「当初は、こちらに残ってKSサイエンスで働く話もいただいていました」

私は反射的に真崎さんを見る。

真崎さんが肩を竦めた。

「俺のところじゃないですよ」

「聞いてないよ」

「顔がそう言ってました」

「顔読まないで」

充さんが小さく笑った。

「でも、やめました」

「え?」

「日本は、もういいかなと思って」

あまりにあっさり言うので。

私は目を瞬いた。

「もういいって……」

「三十七年分、十分です」

その言葉に。

誰も、すぐには何も言わなかった。

生まれてからずっと。

自分の存在そのものを隠され。

知らないところで、いくつもの嘘に巻き込まれ。

父親のそばで証拠を集め。

母親を守り。

すべてを終わらせるために、一人で動いてきた。

三十七年。

――十分。

その一言に。

充さんが背負ってきたものの全部が詰まっている気がした。

トーマスが充さんを見る。

「He will come with me」

「トーマスのところ?」

「Yes」

充さんが頷く。

「トーマスさんの会社で、お世話になることになりました」

私は思わず母を見る。

母が嬉しそうに笑っている。

「海外なら私も行ったり来たりするし、志織さんも会いに行けるでしょう?」

「志織さんも?」

「もちろん」

充さんが答えた。

「母との関係を切るつもりはありません」

「よかった」

心から、そう思った。

そして。

ここまで聞いて。

私はようやく理解した。

今日呼ばれた理由。

事件の後始末。

家族の整理。

会社。

充さんの今後。

きっと。

これで終わりだ。

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