『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
***
結局。
その日の話し合いが終わった頃には、外はすっかり夕暮れに染まっていた。
事件の後始末を聞きに来たはずだった。
それなのに。
気づけば話が進んでいたのは。
結婚式。
新居。
旅行。
仕事のこと。
出産後のこと。
そして――。
鷹宮家の全面リフォーム。
「……何でこんなことになったんだろ」
帰りの車の中で呟くと、遼河さんは前を向いたまま答えた。
「だいたい決めるべきことだっただろう」
「そうだけど」
「なら問題ない」
「問題は、決まる速度なの!」
遼河さんは何も言わなかった。
でも。
僅かに口元が笑っていたのを、私は見逃さなかった。
「今、笑った」
「笑ってない」
「笑ったよ」
「前を向いてろ」
「助手席なのに?」
「……」
ほら。
やっぱり笑ってる。
***
それから数日。
日本に三週間ほど滞在していた母とトーマスは、カリフォルニアへ戻っていった。
二人とも今回のためだけに日本へ来ていたわけではなく、滞在中も仕事をこなしながら、私たちのことに付き合ってくれていたらしい。
空港へ向かう前。
母は私を抱きしめながら、何度も言った。
「何かあったら、すぐ連絡するのよ」
「分かってる」
「時間なんて気にしなくていいからね」
「カリフォルニアと時差あるでしょう」
「そんなの関係ないわよ」
「お母様が寝てたら?」
「起きるわよ」
「仕事中だったら?」
「抜ける」
「……それは駄目でしょ」
隣でトーマスが笑っていた。
「Mayuko will come flying」
「飛んでくるの?」
「Of course」
真顔で頷かれて。
私は遼河さんを見た。
遼河さんも、ほんの少し遠い目をしていた。
たぶん。
同じことを思ったのだろう。
――本当に来そう。
最後まで私のお腹を気にしながら、母はトーマスと共に日本を離れていった。
慎二も、それから数日後。
再び海外へ戻った。
空港へ向かう前に。
「今度帰ってくる時には、俺、叔父さんになってる可能性あるんだよな」
などと言い出したので。
「そうだね」
と答えたら。
また数秒固まった。
どうやら。
まだ時々、実感が追いつかないらしい。
真崎さんからは、
『叔父さんになる前に、弟子として提出物を終わらせろ』
とメッセージが来たらしく。
慎二は最後まで、
「だから弟子じゃないって!」
と文句を言っていた。
たぶん。
あの二人はこの先もずっと、あんな感じなのだろう。
そして充さんは。
すべての後始末が片づくまでは、日本に残ることになった。
「半年くらいはいると思います」
そう聞いたのは、母たちを見送る少し前だった。
「半年?」
「会社の整理もありますし、母のこともあるので」
「じゃあ、向こうへ行くのは?」
「来年の春頃ですね」
来年の春。
その頃には。
私たちの赤ちゃんも、もう生まれている。
「じゃあ、その前に会わせられるね」
そう言うと。
充さんは少し驚いたあと。
柔らかく笑った。
「そうですね」
そして。
ほんの少し間を置いて。
「姪になるのか、甥になるのかは分からないけど」
私は思わず笑った。
その頃の私たちはまだ。
お腹の子が男の子なのか。
女の子なのか。
それすら知らなかった。
そうして。
慌ただしかった人たちが、少しずつそれぞれの場所へ戻っていき。
ようやく。
私たちの日常も落ち着いて――。
くるはずだった。
結局。
その日の話し合いが終わった頃には、外はすっかり夕暮れに染まっていた。
事件の後始末を聞きに来たはずだった。
それなのに。
気づけば話が進んでいたのは。
結婚式。
新居。
旅行。
仕事のこと。
出産後のこと。
そして――。
鷹宮家の全面リフォーム。
「……何でこんなことになったんだろ」
帰りの車の中で呟くと、遼河さんは前を向いたまま答えた。
「だいたい決めるべきことだっただろう」
「そうだけど」
「なら問題ない」
「問題は、決まる速度なの!」
遼河さんは何も言わなかった。
でも。
僅かに口元が笑っていたのを、私は見逃さなかった。
「今、笑った」
「笑ってない」
「笑ったよ」
「前を向いてろ」
「助手席なのに?」
「……」
ほら。
やっぱり笑ってる。
***
それから数日。
日本に三週間ほど滞在していた母とトーマスは、カリフォルニアへ戻っていった。
二人とも今回のためだけに日本へ来ていたわけではなく、滞在中も仕事をこなしながら、私たちのことに付き合ってくれていたらしい。
空港へ向かう前。
母は私を抱きしめながら、何度も言った。
「何かあったら、すぐ連絡するのよ」
「分かってる」
「時間なんて気にしなくていいからね」
「カリフォルニアと時差あるでしょう」
「そんなの関係ないわよ」
「お母様が寝てたら?」
「起きるわよ」
「仕事中だったら?」
「抜ける」
「……それは駄目でしょ」
隣でトーマスが笑っていた。
「Mayuko will come flying」
「飛んでくるの?」
「Of course」
真顔で頷かれて。
私は遼河さんを見た。
遼河さんも、ほんの少し遠い目をしていた。
たぶん。
同じことを思ったのだろう。
――本当に来そう。
最後まで私のお腹を気にしながら、母はトーマスと共に日本を離れていった。
慎二も、それから数日後。
再び海外へ戻った。
空港へ向かう前に。
「今度帰ってくる時には、俺、叔父さんになってる可能性あるんだよな」
などと言い出したので。
「そうだね」
と答えたら。
また数秒固まった。
どうやら。
まだ時々、実感が追いつかないらしい。
真崎さんからは、
『叔父さんになる前に、弟子として提出物を終わらせろ』
とメッセージが来たらしく。
慎二は最後まで、
「だから弟子じゃないって!」
と文句を言っていた。
たぶん。
あの二人はこの先もずっと、あんな感じなのだろう。
そして充さんは。
すべての後始末が片づくまでは、日本に残ることになった。
「半年くらいはいると思います」
そう聞いたのは、母たちを見送る少し前だった。
「半年?」
「会社の整理もありますし、母のこともあるので」
「じゃあ、向こうへ行くのは?」
「来年の春頃ですね」
来年の春。
その頃には。
私たちの赤ちゃんも、もう生まれている。
「じゃあ、その前に会わせられるね」
そう言うと。
充さんは少し驚いたあと。
柔らかく笑った。
「そうですね」
そして。
ほんの少し間を置いて。
「姪になるのか、甥になるのかは分からないけど」
私は思わず笑った。
その頃の私たちはまだ。
お腹の子が男の子なのか。
女の子なのか。
それすら知らなかった。
そうして。
慌ただしかった人たちが、少しずつそれぞれの場所へ戻っていき。
ようやく。
私たちの日常も落ち着いて――。
くるはずだった。