『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
***

三月二十五日。

深夜。

長い時間を越えて。

ようやく。

小さな産声が響いた。

その声を聞いた瞬間。

時間が止まったような気がした。

「……おめでとうございます」

助産師さんの声がする。

「元気な女の子ですよ」

張り詰めていたものが。

一気にほどけた。

二千八百五十グラム。

小さな身体。

赤い頬。

ぎゅっと握られた手。

一生懸命、声を上げて泣いている。

なのに。

どうしてこんなに愛おしいのか分からない。

胸元へ連れてきてもらった瞬間。

涙で何も見えなくなった。

「……梨杏」

声が震えた。

ずっと。

お腹の中で呼んできた名前。

「会えたね……」

小さな頬へ、そっと指を触れる。

温かい。

柔らかい。

生きている。

ここにいる。

それだけで。

胸がいっぱいになった。

隣を見ると。

遼河さんは。

完全に固まっていた。

「遼河さん」

返事がない。

「遼河さん?」

ようやく。

小さく息を吐く。

そして。

壊れてしまうのではないかと思うくらい慎重に。

梨杏の小さな手へ指を差し出した。

その指を。

梨杏がきゅっと握る。

「……」

遼河さんの瞳が揺れた。

私は思わず笑った。

「泣いてる?」

「泣いてない」

掠れた声だった。

「それ、前にも聞いた」

「うるさい」

「泣いてるじゃん」

「……綾乃」

「何?」

遼河さんは。

梨杏を見たまま。

静かに言った。

「ありがとう」

たった一言。

それだけだった。

なのに。

また涙が溢れた。

「私だけじゃないよ」

「……」

「二人の子でしょう?」

遼河さんが、ゆっくり私を見る。

「ああ」

私は梨杏を抱きながら。

遼河さんの手を握った。

大きな手。

十五年前から。

何度も私を引っ張って。

何度も守ってくれた手。

今は。

私たちの娘の小さな手まで、その指を握っている。

私は泣きながら笑った。

「三人になったね」

遼河さんも。

今度は隠さずに笑った。

「ああ」

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