『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
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そんな騒がしい毎日が始まる少し前。

梨杏が生まれる前には、鷹宮の家の全面リフォームも完成していた。

もっとも。

“私たちが住む家”のはずなのに。

私の意見がどれほど反映されたのかは、今でも少し怪しい。

特に厨房。

いや。

あれはもう。

キッチンと呼んでいいのだろうか。

佐知子さんの希望がほぼ全面採用された結果。

業務用厨房並みの設備を備えながら、家庭用として使いやすい大きなアイランドまで組み込まれた、とんでもない空間が完成した。

「これ、一般家庭に必要?」

初めて見た私が呟くと。

「必要です」

佐知子さんは即答した。

何がどう必要なのか。

未だに分からない。

広々としたリビングダイニングは庭に面し、五十畳を超える。

天井は高く吹き抜け、大きな窓からたっぷりと光が差し込む。

庭へ続く一角には、外でくつろげるスペースも設けられた。

和室は二間続き。

ゲストルームもきちんと用意され。

私たちの居住空間には、梨杏が遊べるスペース。

大容量のウォークインクローゼット。

仕事のできる書斎。

もちろんエレベーター付き。

お風呂に至っては――。

「……旅館?」

初めて見た時、本気でそう思った。

父の生活空間とも、きちんと分けられている。

内部の廊下では行き来できるけれど。

父の側にも専用の玄関があり、簡単なキッチンも備わっている。

近い。

ものすごく近い。

でも。

一応、別世帯。

その絶妙な距離感が。

父なりに考えた答えだったのだと思う。

志水さんも変わらず、父のそばで働いている。

梨杏が生まれてからは佐知子さんに加え、彼女の知り合いの女性二人も手伝いに来てくれるようになった。

だから。

子育ては大変だったかと聞かれたら――。

大変だった。

たぶん。

でも。

私が休めなかった理由は、子育てそのものではない。

梨杏を可愛がりたくて仕方がない人間が。

あまりにも多すぎたのである。

特に。

梨杏にとって最初のクリスマス。

思い出したくない。

いや。

訂正。

ものすごく楽しかった。

だけど。

できれば、あの騒ぎはもう一度経験したくない。

KSサイエンスの立ち上げメンバー。

藤和家。

鷹宮家。

カリフォルニアからやって来た母とトーマスの家族。

ジュリアン。

気づけばサンタクロースまで何人いたのか分からない。

梨杏本人より。

大人たちの方が盛り上がっていた。

だから私は。

一歳の誕生日だけは譲らなかった。

「絶対、三人だけ」

宣言した。

「私と遼河さんと梨杏。三人だけで過ごすからね」

父は明らかに不満そうだった。

母も電話の向こうで何か言っていた。

けれど。

そこだけは譲らなかった。

ようやく。

家族三人だけで過ごした、小さな誕生日。

派手な飾りも。

大勢の声もない。

ただ。

梨杏の笑い声と。

私たち二人の声だけがある。

それはそれで。

とても幸せな時間だった。

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