『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
***
そんな騒がしい毎日が始まる少し前。
梨杏が生まれる前には、鷹宮の家の全面リフォームも完成していた。
もっとも。
“私たちが住む家”のはずなのに。
私の意見がどれほど反映されたのかは、今でも少し怪しい。
特に厨房。
いや。
あれはもう。
キッチンと呼んでいいのだろうか。
佐知子さんの希望がほぼ全面採用された結果。
業務用厨房並みの設備を備えながら、家庭用として使いやすい大きなアイランドまで組み込まれた、とんでもない空間が完成した。
「これ、一般家庭に必要?」
初めて見た私が呟くと。
「必要です」
佐知子さんは即答した。
何がどう必要なのか。
未だに分からない。
広々としたリビングダイニングは庭に面し、五十畳を超える。
天井は高く吹き抜け、大きな窓からたっぷりと光が差し込む。
庭へ続く一角には、外でくつろげるスペースも設けられた。
和室は二間続き。
ゲストルームもきちんと用意され。
私たちの居住空間には、梨杏が遊べるスペース。
大容量のウォークインクローゼット。
仕事のできる書斎。
もちろんエレベーター付き。
お風呂に至っては――。
「……旅館?」
初めて見た時、本気でそう思った。
父の生活空間とも、きちんと分けられている。
内部の廊下では行き来できるけれど。
父の側にも専用の玄関があり、簡単なキッチンも備わっている。
近い。
ものすごく近い。
でも。
一応、別世帯。
その絶妙な距離感が。
父なりに考えた答えだったのだと思う。
志水さんも変わらず、父のそばで働いている。
梨杏が生まれてからは佐知子さんに加え、彼女の知り合いの女性二人も手伝いに来てくれるようになった。
だから。
子育ては大変だったかと聞かれたら――。
大変だった。
たぶん。
でも。
私が休めなかった理由は、子育てそのものではない。
梨杏を可愛がりたくて仕方がない人間が。
あまりにも多すぎたのである。
特に。
梨杏にとって最初のクリスマス。
思い出したくない。
いや。
訂正。
ものすごく楽しかった。
だけど。
できれば、あの騒ぎはもう一度経験したくない。
KSサイエンスの立ち上げメンバー。
藤和家。
鷹宮家。
カリフォルニアからやって来た母とトーマスの家族。
ジュリアン。
気づけばサンタクロースまで何人いたのか分からない。
梨杏本人より。
大人たちの方が盛り上がっていた。
だから私は。
一歳の誕生日だけは譲らなかった。
「絶対、三人だけ」
宣言した。
「私と遼河さんと梨杏。三人だけで過ごすからね」
父は明らかに不満そうだった。
母も電話の向こうで何か言っていた。
けれど。
そこだけは譲らなかった。
ようやく。
家族三人だけで過ごした、小さな誕生日。
派手な飾りも。
大勢の声もない。
ただ。
梨杏の笑い声と。
私たち二人の声だけがある。
それはそれで。
とても幸せな時間だった。
そんな騒がしい毎日が始まる少し前。
梨杏が生まれる前には、鷹宮の家の全面リフォームも完成していた。
もっとも。
“私たちが住む家”のはずなのに。
私の意見がどれほど反映されたのかは、今でも少し怪しい。
特に厨房。
いや。
あれはもう。
キッチンと呼んでいいのだろうか。
佐知子さんの希望がほぼ全面採用された結果。
業務用厨房並みの設備を備えながら、家庭用として使いやすい大きなアイランドまで組み込まれた、とんでもない空間が完成した。
「これ、一般家庭に必要?」
初めて見た私が呟くと。
「必要です」
佐知子さんは即答した。
何がどう必要なのか。
未だに分からない。
広々としたリビングダイニングは庭に面し、五十畳を超える。
天井は高く吹き抜け、大きな窓からたっぷりと光が差し込む。
庭へ続く一角には、外でくつろげるスペースも設けられた。
和室は二間続き。
ゲストルームもきちんと用意され。
私たちの居住空間には、梨杏が遊べるスペース。
大容量のウォークインクローゼット。
仕事のできる書斎。
もちろんエレベーター付き。
お風呂に至っては――。
「……旅館?」
初めて見た時、本気でそう思った。
父の生活空間とも、きちんと分けられている。
内部の廊下では行き来できるけれど。
父の側にも専用の玄関があり、簡単なキッチンも備わっている。
近い。
ものすごく近い。
でも。
一応、別世帯。
その絶妙な距離感が。
父なりに考えた答えだったのだと思う。
志水さんも変わらず、父のそばで働いている。
梨杏が生まれてからは佐知子さんに加え、彼女の知り合いの女性二人も手伝いに来てくれるようになった。
だから。
子育ては大変だったかと聞かれたら――。
大変だった。
たぶん。
でも。
私が休めなかった理由は、子育てそのものではない。
梨杏を可愛がりたくて仕方がない人間が。
あまりにも多すぎたのである。
特に。
梨杏にとって最初のクリスマス。
思い出したくない。
いや。
訂正。
ものすごく楽しかった。
だけど。
できれば、あの騒ぎはもう一度経験したくない。
KSサイエンスの立ち上げメンバー。
藤和家。
鷹宮家。
カリフォルニアからやって来た母とトーマスの家族。
ジュリアン。
気づけばサンタクロースまで何人いたのか分からない。
梨杏本人より。
大人たちの方が盛り上がっていた。
だから私は。
一歳の誕生日だけは譲らなかった。
「絶対、三人だけ」
宣言した。
「私と遼河さんと梨杏。三人だけで過ごすからね」
父は明らかに不満そうだった。
母も電話の向こうで何か言っていた。
けれど。
そこだけは譲らなかった。
ようやく。
家族三人だけで過ごした、小さな誕生日。
派手な飾りも。
大勢の声もない。
ただ。
梨杏の笑い声と。
私たち二人の声だけがある。
それはそれで。
とても幸せな時間だった。