『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
「ママー!」

感傷に浸る暇など、当然なかった。

今度はリビングの奥から声が飛んできた。しかも、一人ではない。

「ママー!」

「ママー!」

「ママー!」

三方向から同時に呼ばれ、私は思わず目を閉じた。

……そうだった。

我が家には、まだいる。

しかも三人。

四歳になった三つ子――花梨、真凜、由羅。

三人揃って、とにかくよく喋り、よく走り、よく喧嘩をする。そして同じ日に生まれたとは思えないくらい、性格が違う。

「花梨が取った!」

「真凜が先!」

「由羅も使うー!」

「一個ずつ!」

「やだー!」

「ママー!」

朝から絶好調だ。

そして、その騒ぎのさらに奥から。

「うぁー!」

一歳の玲音まで参戦した。

我が家唯一の男の子、玲音――レオン。

つい最近、ようやくよちよち歩きを始めたばかりなのに、姉が四人もいるせいなのか、逞しさだけはすでに誰にも負けていない。

「レオンまで来た……」

思わず呟くと、すぐそばにいた遼河さんが玲音を抱き上げた。

「玲音」

「パパ」

「……」

ぴたり、と遼河さんの動きが止まる。

私は思わず笑ってしまった。

「今、パパって言ったね」

「ああ」

「嬉しい?」

「別に」

その顔で?

分かりやすすぎる。

玲音が遼河さんの顔をじっと見つめ、もう一度言った。

「パパ」

「……ああ」

返事をする声が、さっきまでとは比べものにならないくらい優しい。

「遼河さん」

「何だ」

「顔、緩んでる」

「気のせいだ」

何年経っても、この人のこういうところは変わらない。

< 159 / 162 >

この作品をシェア

pagetop