【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~

14.

 玉座へと続く通路の両脇には、重臣と思しき十数名ほどの男たちが並んで立っている。
 誰一人として声を発することなく、視線だけが一斉にこちらへと向けられていた。
 彼らの視線には、私を値踏みするような色が強く浮かんでいる。
 その先の玉座に座る人物が、自然と視界に入った。
(あの方が、セルジュ国王……)
 思わず息を呑んだ。
 わずかに肩に触れる長さの、眩しいほどの金色の髪。
 切れ長の青い目に、長く濃い睫毛。真っ直ぐに通った鼻梁。形のいい唇。
 このオルセリエ王国新国王の顔立ちは、驚くほど端整だった。
 彼は片肘を肘掛けに預け、頬杖をついた姿勢のまま、深い海のような眼差しでこちらを見ていた。
 神が繊細に創り上げたかのようなその美しさに、私は一歩進むごとにひそかに驚いていた。そしてまた、その目の下にくっきりと刻まれたクマにも気付く。
(戦を重ねてきた国の王として想像していた厳つさや荒々しさが、全く感じられないわ。父王に疎まれ、長く表舞台から遠ざけられていたとは、たしかに聞いていたけれど……)
 彼の気怠げな態度の奥には、容易に踏み込ませない冷ややかな雰囲気があった。
 その国王セルジュ様と、両側に並んで立つ重臣ら、そして衛兵たちの視線を一身に浴びながら、私は玉座の前まで辿り着いた。ゆっくりと膝を折り、カーテシーをする。
「エヴァンシア王国よりまいりました、アリスティーヌでございます。本日より、オルセリエ王国に身を置くこととなりました。国王陛下に、謹んでご挨拶申し上げます」
 そう述べゆっくりと顔を上げると、セルジュ国王は数秒間、頬杖をついたままの姿勢で私を見ていた。そして一度目を伏せ小さく息をつくと、両手を組み下ろし再び私の方を見た。
「……遠路ご苦労だった。セルジュ・アルベール・オルセリエだ。我が王国は今、立て直しの途上にある。はるばる来てくれた妃に対し心苦しいが、盛大に歓迎できる状況ではないということを理解してもらいたい」
 少しも「心苦しい」なんて思っていなさそうなその声は、繊細な見目から想像していたよりも、低くしっかりとしたものだった。私は再び頭を下げる。
「承知しております。このオルセリエ王国の現状については、私なりに理解し、ここまでまいりました。与えられた立場のもとで、私にできることを果たしていきたいと思っております。どうぞ、これからよろしくお願いいたします」
 そう告げると、セルジュ国王はまたも私のことを見つめたまま沈黙した。この方からも値踏みされているのだと、ひしひしと感じる。
 目を逸らすことなく彼を見つめ返していると、やがてセルジュ国王はそっと目を伏せた。
 それから並んで立っている重臣らを、私に簡単に紹介する。宰相や各大臣たちとの挨拶が終わると、彼はやや面倒そうな声色で言った。
「疲れているだろう。一息つくといい。……案内を」
「はっ」
 セルジュ国王が目で合図をしてそう告げると、侍従の一人がそばへとやって来て私を促す。
 私はセルジュ国王に礼をし、謁見の間を後にしたのだった。

「こちらがアリスティーヌ様のお部屋となっております。ここからは専属の者たちがご挨拶をさせていただきますので」
 目的の部屋の前まで辿り着くと、侍従はそう言い、一礼して去っていった。部屋の前で一人残された私は、おずおずと室内に足を踏み入れる。
 部屋の中は、装飾品こそ少ないけれど、広々としていた。天蓋付きの寝台が視界に入る。
 そしてそこには、三名の女性が立っていた。皆私を見ると、ゆっくりと礼をする。
 四十代くらいに見える一番年配の女性が、口を開いた。その黒髪には白い毛が何本か交じっている。
「アリスティーヌ様、遠路はるばるようこそお越しくださいました。私はこのオルセリエ王宮の侍女長にございます」
 目を細め、そう挨拶をする彼女の柔和な雰囲気に、少しほっとする。彼女は自分の背後に控えている二人の侍女も紹介してくれた。
「この者たちはアリスティーヌ様のお世話をさせていただく専属侍女でございます。エミナ、ロゼル、ご挨拶を」
 声をかけられた二人の女性が、やや緊張した面持ちで一歩進み出た。
 長い赤毛をおさげにした女性が、はきはきとした声で言う。
「エミナと申します! どうぞよろしくお願いいたします」
 元気いっぱいに頭を下げる姿に、思わず頬が緩む。
 すると、もう一人の侍女も口を開いた。こちらはオレンジがかった金髪をひっつめている。
「ロゼルと申します。アリスティーヌ様に誠心誠意お仕えさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
 落ち着いた物腰で、所作の一つひとつが丁寧だ。
 二人とも、私よりいくつか年上のように見える。
 余裕があるようには決して見えないこの王宮で、専属の侍女を二人も付けてもらえるとは。ありがたい話だ。
「アリスティーヌよ。こちらこそ、これからどうぞよろしくね」
 笑みを浮かべてそう答えると、二人は幾分安心したように見えた。侍女長が言う。
「この二人は、前王妃陛下付きの侍女でございましたゆえ、王宮の事情は一通り心得てございます。お困りごとなどがあれば、どうぞご遠慮なくお尋ねくださいませ。もちろん、私がおります時には、私にもぜひ」
「ええ。助かるわ。ありがとう」
 そう答えながら、体の強張りが少し解けた。先ほどの謁見の間で、セルジュ国王や大臣らの視線を受けていた時の、刃のように張り詰めた緊張感がここにはない。少なくともこの三人には、私を値踏みしたり拒否したりする様子が見られなかった。

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