【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
15.
その日の夕食は、私室に運ばれてきた。どうやら今夜の食事は、セルジュ国王とは別々にとるようだ。
数種類の刻んだ野菜が入ったスープに、柑橘とハーブの添えられた川魚のソテー。小ぶりな子羊のローストに、付け合わせの野菜と二種類のパン。デザートには、林檎のコンポート。
量も品数もさほど多くはないけれど、これが今のこの王国の精一杯なのだろう。
その後、エミナとロゼルに手伝ってもらい湯浴みを済ませると、侍女長から「国王陛下より、今宵はこちらのお部屋でお休みいただくようにとのご伝言でございます」と告げられた。初夜があるかと身構えていたけれど、それもないようだ。私は長旅で疲れていた体を、ありがたく休めることにした。
翌朝。目覚めた私は、エヴァンシア王国から持参した荷物の中にあったドレスを着、身支度を整える。出国にあたり、何枚かのドレスは持たされていたのだ。
その後、部屋に朝食が運ばれてくる。昨夜と同じく、特別贅沢ではないけれど粗末でもない食事だった。
朝食が済むと、エミナがお茶を淹れてくれた。それをいただきながら、私はエミナとロゼルにいろいろと質問をしてみた。
「昨日侍女長が、あなたたち二人は前王妃陛下の専属侍女だったと言っていたわね」
「はい、さようでございます!」
元気に答えるエミナの言葉に、私は小さく頷いた。
「その前王妃陛下だけど、今はどちらに……?」
昨日からずっと気になっていた。エヴァンシア王国王家の人間として、これまで近隣諸国の情勢はある程度把握してきた。オルセリエ前国王が野蛮な人柄で、近隣の国々に無謀なまでの戦争を幾度も仕掛けていたことも知っている。その結果、国力は著しく低下し、民心は荒廃した。結果として、前国王はクーデターにより失脚し、処刑されたのだ。
そのことは知っているけれど、前王妃陛下はどうなったのだろう。幽閉されているのだろうか。
エミナとロゼルが、一瞬顔を見合わせた。気まずそうに眉尻を下げるエミナから私へと視線を向け、ロゼルが言う。
「前王妃陛下は、何年も前に母国へお帰りになっておられます。戦が続く中、御身の安全を第一に考えられたようで……」
「……そう」
(なるほど。この王国と夫である国王を早々に見限り、母国へお逃げになったのね)
言われてみれば、このオルセリエ王国の前王妃陛下もまた、他国から嫁いでこられた方だった。外交史で学んだ知識が脳裏に浮かぶ。けれど……。
「前王妃陛下は、セルジュ国王陛下の実母であらせられるのよね?」
私がそう問うと、エミナが答える。
「はい、さようでございます。エヴァンシア王国もそうであったかと記憶しておりますが、我がオルセリエ王国も側妃制度はございません。前王妃陛下は、セルジュ国王陛下とその妹君に当たられる二人の王女殿下をお産みになられたお方です」
「そう。……その王女殿下方は、それぞれ他国に嫁がれたのだったわね」
この王国の王家に関する知識を辿りながら重ねて尋ねると、今度はロゼルが口を開いた。
「おっしゃる通りです。大陸の中でも権力の強い大国に、それぞれ嫁いでおられます」
二人の言葉を聞きながら、私は前王妃陛下に思いを馳せた。
暴走する国王を止められぬまま、命を懸けてまでここに留まる義理はないとお思いになったのだろう。もしくは、母国のご家族から戻るよう言われたのかもしれない。
(……セルジュ国王は、孤独なお方なのね……)
実母は自分を置いて母国へ帰り、実父である前国王は処刑され、妹君たちは他国へと嫁ぎ……。
そんな中、この瓦解しかかっているオルセリエ王国を、たったお一人で背負っておられるわけだ。
セルジュ国王のことを考え、そしてその妃としてここにやって来た自分のことを考える。
私には、前王妃陛下のように帰る国はない。
ここがどんな国であろうとも、セルジュ国王がどんな方であろうとも、私はもうこのオルセリエ王国に骨を埋めるほかないのだ。
(であれば、ここで自分にやれることを、腹を括ってやるしかないわよね)
私は加護の力の中でも特に希少な、変革の力を持って生まれた。
でも、母国エヴァンシアのためにその力を振るうことはもうできない。他国へと出た今、私の加護の力がどこまで発揮できるのかも、正直分からない。
けれど力はどうあれ、誠心誠意公務に励み続ければ、この疲弊しきった王国を立て直す一助となることはできるだろう。
これからは、このオルセリエ王国の復興と、安寧を取り戻すために生きるんだ。
新しく夫となった、セルジュ国王とともに。
そう決意はしたものの、それから約一週間。来る日も来る日も、私は同じ生活を強いられていた。
朝起きて身支度と朝食を済ませると、エミナとロゼルに王宮内を案内されるだけ。他のことがしたいと訴えると、図書室に連れていかれるか、殺風景な庭園のガゼボでお茶の準備がされる。
昼食、夕食以外はほぼこんな調子。その食事さえも毎回私室に運ばれてくるのだから、もう軟禁されているようなものだ。
この王宮にやってきた初日以来、大臣たちはおろか、夫となったはずのセルジュ国王とさえ顔を合わせてはいない。
さすがにここでの自分の扱いが分かってきた。
(私は警戒されているのよね。政に関わらせる気がないどころか、王妃としての何かしらの仕事を与える気もない、ってところかしら)
けれどそれなら、私は一体何のためにここへ来たのか。
この状況は、いつまで続くのだろう。
その日。読んでいた王国史の書物から顔を上げた私は、壁際に控えていたエミナとロゼルに声をかけた。
「ねぇ」
「はい、いかがなさいましたか? アリスティーヌ様」
エミナがすばやく反応すると、優しい笑みを浮かべ、いそいそとそばに寄ってくる。
私も彼女に笑みを返し、言った。
「セルジュ国王陛下に伝言を。今夜の夕食をともにしとうございますと、そう伝えてちょうだい」
数種類の刻んだ野菜が入ったスープに、柑橘とハーブの添えられた川魚のソテー。小ぶりな子羊のローストに、付け合わせの野菜と二種類のパン。デザートには、林檎のコンポート。
量も品数もさほど多くはないけれど、これが今のこの王国の精一杯なのだろう。
その後、エミナとロゼルに手伝ってもらい湯浴みを済ませると、侍女長から「国王陛下より、今宵はこちらのお部屋でお休みいただくようにとのご伝言でございます」と告げられた。初夜があるかと身構えていたけれど、それもないようだ。私は長旅で疲れていた体を、ありがたく休めることにした。
翌朝。目覚めた私は、エヴァンシア王国から持参した荷物の中にあったドレスを着、身支度を整える。出国にあたり、何枚かのドレスは持たされていたのだ。
その後、部屋に朝食が運ばれてくる。昨夜と同じく、特別贅沢ではないけれど粗末でもない食事だった。
朝食が済むと、エミナがお茶を淹れてくれた。それをいただきながら、私はエミナとロゼルにいろいろと質問をしてみた。
「昨日侍女長が、あなたたち二人は前王妃陛下の専属侍女だったと言っていたわね」
「はい、さようでございます!」
元気に答えるエミナの言葉に、私は小さく頷いた。
「その前王妃陛下だけど、今はどちらに……?」
昨日からずっと気になっていた。エヴァンシア王国王家の人間として、これまで近隣諸国の情勢はある程度把握してきた。オルセリエ前国王が野蛮な人柄で、近隣の国々に無謀なまでの戦争を幾度も仕掛けていたことも知っている。その結果、国力は著しく低下し、民心は荒廃した。結果として、前国王はクーデターにより失脚し、処刑されたのだ。
そのことは知っているけれど、前王妃陛下はどうなったのだろう。幽閉されているのだろうか。
エミナとロゼルが、一瞬顔を見合わせた。気まずそうに眉尻を下げるエミナから私へと視線を向け、ロゼルが言う。
「前王妃陛下は、何年も前に母国へお帰りになっておられます。戦が続く中、御身の安全を第一に考えられたようで……」
「……そう」
(なるほど。この王国と夫である国王を早々に見限り、母国へお逃げになったのね)
言われてみれば、このオルセリエ王国の前王妃陛下もまた、他国から嫁いでこられた方だった。外交史で学んだ知識が脳裏に浮かぶ。けれど……。
「前王妃陛下は、セルジュ国王陛下の実母であらせられるのよね?」
私がそう問うと、エミナが答える。
「はい、さようでございます。エヴァンシア王国もそうであったかと記憶しておりますが、我がオルセリエ王国も側妃制度はございません。前王妃陛下は、セルジュ国王陛下とその妹君に当たられる二人の王女殿下をお産みになられたお方です」
「そう。……その王女殿下方は、それぞれ他国に嫁がれたのだったわね」
この王国の王家に関する知識を辿りながら重ねて尋ねると、今度はロゼルが口を開いた。
「おっしゃる通りです。大陸の中でも権力の強い大国に、それぞれ嫁いでおられます」
二人の言葉を聞きながら、私は前王妃陛下に思いを馳せた。
暴走する国王を止められぬまま、命を懸けてまでここに留まる義理はないとお思いになったのだろう。もしくは、母国のご家族から戻るよう言われたのかもしれない。
(……セルジュ国王は、孤独なお方なのね……)
実母は自分を置いて母国へ帰り、実父である前国王は処刑され、妹君たちは他国へと嫁ぎ……。
そんな中、この瓦解しかかっているオルセリエ王国を、たったお一人で背負っておられるわけだ。
セルジュ国王のことを考え、そしてその妃としてここにやって来た自分のことを考える。
私には、前王妃陛下のように帰る国はない。
ここがどんな国であろうとも、セルジュ国王がどんな方であろうとも、私はもうこのオルセリエ王国に骨を埋めるほかないのだ。
(であれば、ここで自分にやれることを、腹を括ってやるしかないわよね)
私は加護の力の中でも特に希少な、変革の力を持って生まれた。
でも、母国エヴァンシアのためにその力を振るうことはもうできない。他国へと出た今、私の加護の力がどこまで発揮できるのかも、正直分からない。
けれど力はどうあれ、誠心誠意公務に励み続ければ、この疲弊しきった王国を立て直す一助となることはできるだろう。
これからは、このオルセリエ王国の復興と、安寧を取り戻すために生きるんだ。
新しく夫となった、セルジュ国王とともに。
そう決意はしたものの、それから約一週間。来る日も来る日も、私は同じ生活を強いられていた。
朝起きて身支度と朝食を済ませると、エミナとロゼルに王宮内を案内されるだけ。他のことがしたいと訴えると、図書室に連れていかれるか、殺風景な庭園のガゼボでお茶の準備がされる。
昼食、夕食以外はほぼこんな調子。その食事さえも毎回私室に運ばれてくるのだから、もう軟禁されているようなものだ。
この王宮にやってきた初日以来、大臣たちはおろか、夫となったはずのセルジュ国王とさえ顔を合わせてはいない。
さすがにここでの自分の扱いが分かってきた。
(私は警戒されているのよね。政に関わらせる気がないどころか、王妃としての何かしらの仕事を与える気もない、ってところかしら)
けれどそれなら、私は一体何のためにここへ来たのか。
この状況は、いつまで続くのだろう。
その日。読んでいた王国史の書物から顔を上げた私は、壁際に控えていたエミナとロゼルに声をかけた。
「ねぇ」
「はい、いかがなさいましたか? アリスティーヌ様」
エミナがすばやく反応すると、優しい笑みを浮かべ、いそいそとそばに寄ってくる。
私も彼女に笑みを返し、言った。
「セルジュ国王陛下に伝言を。今夜の夕食をともにしとうございますと、そう伝えてちょうだい」