【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
20.
この救護院の院長は、枯れ木のように痩せ細った初老の男性だった。
挨拶が終わり、応接間で向かい合って座ると、私は現状の聞き取りを始めた。
エミナとロゼル、そしてヴォルグの三人は、壁際に静かに控えている。
「収容人数は、とうに限界を超えております」
院長は背を丸め、弱々しい声を発した。
「長く続いた戦の弊害で、ここ数年、孤児も未亡人も増える一方でした。地方からの難民も流れ込んできております。現在この救護院では、百二十名ほどが生活しておりますが、本来ここは、その半分ほどの人数を想定して建てられたものです」
「……そんなに……」
私は思わず息を呑んだ。
「配給の量は少なく、全く足りておりません。畑を耕しても実りは乏しく……。子どもたちにはなるべく回しておりますが、大人は一日一度の食事で済ませることも珍しくない状況です」
「……先ほど、医師も薬も足りていないと聞きました」
私の言葉に、院長が項垂れるように頷く。
「さようです。以前は時折巡回の医師が来ておりましたが、もう手一杯なのでしょう。その回数も一層少なくなり、薬草も底をつきかけております。このままいけば次の冬には、病が蔓延するやもしれません」
院長は深く息をつく。
「王家からの慰問も途絶え、現状を訴える先もありませんでした。どうにもならない逼迫した状態が、ずっと続いているのです……」
「……本当に、申し訳ありませんでした」
私は院長にも頭を下げた。
「全ての責任は、先王ら指導者たちの身勝手な行動と、その後の杜撰な対応にあります。王家を代表し、心よりお詫びします」
謝罪をし、顔を上げると、院長が目を丸くして私を見つめている。
「皆さんの生活環境改善を第一に考え、対策をとってまいります。……まずは、子どもたちと女性たちの、正確な人数を把握させてください」
私が振り返ると、すぐにロゼルがこちらへとやって来た。預けていた紙とペンを手にし、私は言葉を続ける。
「現在の配給の頻度と量についても教えていただきたいです。王家の帳簿と照らし合わせ、届く過程の中で中抜きや滞りがないかも、合わせて確認します。それから……、たとえば新たに畑を作るとなった時のために、空いている土地や、働ける人員についても把握しておきたいです」
メモをとる準備をして顔を上げると、院長はあ然とした表情で私を見つめていた。
何年も放置されていたのに、突然現れた王家の者がこんなことを言い出して驚いているのだろうか。
私は彼を少しでも安心させるべく、はっきりと宣言した。
「本日からは、私が責任を持ってこの救護院の状況改善に当たります。定期的に足を運びますので、どうぞよろしくお願いします」
院長は、しばらく黙ったまま私を見つめていた。
けれどやがて唇を震わせ、その筋張った拳を膝の上で握りしめた。
「あ……ありがとうございます、王妃様……」
それから小一時間かけて綿密な聞き取りを終えると、私たちは応接間を後にした。
その後院長に案内してもらい、子どもたちの過ごしている部屋や寝室、厨房、病人たちのいる療養室などを一通り見て回る。
どこも設備は古く傷んでおり、人で溢れかえっていた。
「……実際にこの目で見ると、深刻さがよく分かるわ」
廊下を歩きながら小さくそう呟くと、そばにいたエミナが同意した。
「子どもたちが、あまりにも不憫です……」
「これじゃさっき聞いた配給量で足りるはずがないわね。慰問品は、予定していた量よりも多めに置いて帰りましょう」
そんな会話をしながら歩いている間も、子どもたちの不安げな視線や、大人たちの憎しみを帯びた眼差しが、そこかしこから私たちに浴びせられていた。
(……この王国で私が民心を得る日は、まだまだ遠いわね……)
加護の力に頼らずとも、己の努力で国を立て直していくために、最大限動かなくては。
そう心に刻み、私は救護院の視察を続けた。
挨拶が終わり、応接間で向かい合って座ると、私は現状の聞き取りを始めた。
エミナとロゼル、そしてヴォルグの三人は、壁際に静かに控えている。
「収容人数は、とうに限界を超えております」
院長は背を丸め、弱々しい声を発した。
「長く続いた戦の弊害で、ここ数年、孤児も未亡人も増える一方でした。地方からの難民も流れ込んできております。現在この救護院では、百二十名ほどが生活しておりますが、本来ここは、その半分ほどの人数を想定して建てられたものです」
「……そんなに……」
私は思わず息を呑んだ。
「配給の量は少なく、全く足りておりません。畑を耕しても実りは乏しく……。子どもたちにはなるべく回しておりますが、大人は一日一度の食事で済ませることも珍しくない状況です」
「……先ほど、医師も薬も足りていないと聞きました」
私の言葉に、院長が項垂れるように頷く。
「さようです。以前は時折巡回の医師が来ておりましたが、もう手一杯なのでしょう。その回数も一層少なくなり、薬草も底をつきかけております。このままいけば次の冬には、病が蔓延するやもしれません」
院長は深く息をつく。
「王家からの慰問も途絶え、現状を訴える先もありませんでした。どうにもならない逼迫した状態が、ずっと続いているのです……」
「……本当に、申し訳ありませんでした」
私は院長にも頭を下げた。
「全ての責任は、先王ら指導者たちの身勝手な行動と、その後の杜撰な対応にあります。王家を代表し、心よりお詫びします」
謝罪をし、顔を上げると、院長が目を丸くして私を見つめている。
「皆さんの生活環境改善を第一に考え、対策をとってまいります。……まずは、子どもたちと女性たちの、正確な人数を把握させてください」
私が振り返ると、すぐにロゼルがこちらへとやって来た。預けていた紙とペンを手にし、私は言葉を続ける。
「現在の配給の頻度と量についても教えていただきたいです。王家の帳簿と照らし合わせ、届く過程の中で中抜きや滞りがないかも、合わせて確認します。それから……、たとえば新たに畑を作るとなった時のために、空いている土地や、働ける人員についても把握しておきたいです」
メモをとる準備をして顔を上げると、院長はあ然とした表情で私を見つめていた。
何年も放置されていたのに、突然現れた王家の者がこんなことを言い出して驚いているのだろうか。
私は彼を少しでも安心させるべく、はっきりと宣言した。
「本日からは、私が責任を持ってこの救護院の状況改善に当たります。定期的に足を運びますので、どうぞよろしくお願いします」
院長は、しばらく黙ったまま私を見つめていた。
けれどやがて唇を震わせ、その筋張った拳を膝の上で握りしめた。
「あ……ありがとうございます、王妃様……」
それから小一時間かけて綿密な聞き取りを終えると、私たちは応接間を後にした。
その後院長に案内してもらい、子どもたちの過ごしている部屋や寝室、厨房、病人たちのいる療養室などを一通り見て回る。
どこも設備は古く傷んでおり、人で溢れかえっていた。
「……実際にこの目で見ると、深刻さがよく分かるわ」
廊下を歩きながら小さくそう呟くと、そばにいたエミナが同意した。
「子どもたちが、あまりにも不憫です……」
「これじゃさっき聞いた配給量で足りるはずがないわね。慰問品は、予定していた量よりも多めに置いて帰りましょう」
そんな会話をしながら歩いている間も、子どもたちの不安げな視線や、大人たちの憎しみを帯びた眼差しが、そこかしこから私たちに浴びせられていた。
(……この王国で私が民心を得る日は、まだまだ遠いわね……)
加護の力に頼らずとも、己の努力で国を立て直していくために、最大限動かなくては。
そう心に刻み、私は救護院の視察を続けた。