【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~

30.

 私は悩んだ挙句、意を決して母国エヴァンシアに支援を願い出た。
 けれど、オルセリエの逼迫した現状を訴え助けを乞うた私の手紙に返ってきたのは、あまりにも冷ややかな返答だった。
【我が国は王妃を差し出し、すでに貴国との良好な関係維持に努めている。これ以上の負担を引き受ける理由は一切ない】
 おそらくは周辺諸国の中で最も余力を持っていながらも、ディオネル様は金貨の一枚どころか、穀物の一粒さえも動かしてはくれなかった。
(王妃を差し出し……ね。ロジーナと結婚するために、都合良く私をお払い箱にしただけなのに)
 失望しながら、私はその書簡を引き出しにしまったのだった。
 夕食をともにしながら、私はそのことをセルジュ様に報告した。初めて朝食に誘われた日から、私たちは自然と、毎日の夕食を一緒にとるようになっていた。セルジュ様の食欲もだいぶ出てきたようで、少し安心する。
 彼はカトラリーを動かしながら、小さく首肯した。
「そうか。まぁ、すでに君という宝を差し出しているんだ。戦後の貧しさに喘ぐばかりの我が国にこれ以上手を差し伸べたとて、今のところエヴァンシアには何の利もないしな。当然の返答だろう」
(た……、宝……)
 当たり前のように言われたその言葉に何だか照れてしまい、私はナイフを動かしながら、言い訳めいたことをもごもごと口にする。
「そのように私を買っていて、オルセリエに差し出したわけではありませんわ。ディオネル様はただ、私の存在が邪魔だったのです。他に妃に迎えたい女性がいたのですから」
(こんなことを言われても、セルジュ様が困ってしまうわよね。何を言っているんだか私も……)
 自虐的な否定に一人で気まずくなっていると、セルジュ様がやけに真剣な眼差しをこちらに向ける。
「新しく迎えた王妃の為人(ひととなり)は知らないが、エヴァンシア国王は見る目がないな。国民のためを思いこんなに真摯に働いてくれる妃を、いともあっさり手放すなど」
「セ、セルジュ様……」
 私の働きを認めてくださるその優しい言葉に、ますますまごついてしまう。カトラリーを動かしていた私の手は、完全に止まった。
 けれどセルジュ様は、そんな私に優しく微笑みかける。
「わずかな判断の過ちさえも許されない、我が国の現状だ。裏切られる可能性に怯え、もう二度と誰にも頼らないと意地になっていた。そんな俺の心でさえ、君は溶かしたんだ。君がそれだけの働きをし、俺に向き合ってくれたおかげだよ。……ありがとう、アリスティーヌ」
「……そんな……」
 温かいその言葉に、胸がいっぱいになる。こんな言葉をかけてもらえるなんて思ってもいなかった。
 頬がじわじわと熱を帯びる。セルジュ様を見つめたまま固まっていると、彼ははっとした顔をして眉間に小さく皺を寄せ、目を逸らした。
「……つまり、君に期待しているということだ。頼りにもしている。それで今後の方針だが……やはり近隣の国々に援助を頼むことは難しい」
 なんだかセルジュ様の眦も、若干朱を帯びている気がする。妙にくすぐったい空気が、私たちの間に流れた。
「父王の侵略の被害を受けていない他の周辺国に支援を求めることも考えたが、鉱山の利権や恒久的な通商の優遇など、提示される条件は目に見えている」
 その空気を変えるように真剣な話を始めたセルジュ様に、私も頷きつつ答える。
「そうですね。それでは国の主導権を差し出すようなもの……」
「ああ。足元を見られた悪条件の取引を受け入れる余力は、今のオルセリエにはない」
 であれば私たちは、やはりどうにかして自分たちの力だけで立ち直らなければならないのだ。
 ああでもないこうでもないと意見を交わしながら、私たちはその日、いつもよりも長い夕食の時間を過ごした。
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