【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~

31.

 その後も、朝はこれまで通り神殿で祈りを捧げ、王宮に戻り、セルジュ様から共有された外交書簡に目を通す日々が続いた。
 前王の仕掛けた戦の傷跡は深い。講和条件の調整、捕虜交換の取り決め、途絶えていた通商の再開。どれも一筋縄ではいかないものばかりだった。
 書簡に記された各国の反応には、依然として警戒の色が濃く残っている。
 目の前の一通一通に向き合いながら、私はセルジュ様に代わって、必要な箇所へ意見を書き添えていった。
 午後から行うようになった慰問では、施設を訪ねるたびに、配給の状況を細かく確かめた。
 品物はきちんと行き渡っているか。収容人数の増減はどうか。不足が生じている施設はないか。
 商人の往来について街の民たちに尋ねてみても、状況はどこも似たようなものだった。街道が危険なため遠回りをして来たり、すぐに引き返すはめになってしまったり。
 ともかく早急に、盗賊を減らさなければならない。
 セルジュ様との話し合いを重ね、私は騎士団長ヴォルグに命じ、生存している元兵士たちの名簿を整えさせた。
 彼らの出身部隊や技能を記し、身元の確かな者を選び出す。そして彼らを、騎士団監督のもとで編成した街道警備隊へと参加させた。
 けれど、その賃金の全てを金で支払うことはできない。
 そのため、給金の一部を食料として支給する形を取った。本人だけでなく家族分も行き渡るようにすることで、生活の安定と忠誠の確保を図る。
 また、その街道警備隊を各地に配置し、商隊の護衛も担当させ、街道の安全を保証する体制を整えていった。
 同時に、物資の確保にも手を打った。
 各領地の被害状況を調べ、余力のある領地を選び、当主へ取引を希望する書簡を送った。一方的な命令ではなく、オルセリエ王国再建への協力を求める、王家としての明確な意思表示でもあった。
 穀物は王家が正当に買い上げる。輸送の負担はこちらで引き受け、相手に不利益が生じぬよう配慮する。
 そうした条件を整えたうえで、私は一つずつ交渉を進めていった。
 さらに、国外との通商にも手を入れていく。
 中立国の商人に対しては、関税の引き下げを提示し、物資の輸送がしやすい環境を整えた。
 街道が安全になれば物資が順調に巡り、民の暮らしは立ち直る。
 その循環を作るための土台を、私はセルジュ様と相談しながら、一つずつ積み上げていった。
 侵略のために使われてきた軍は、今やその役割を変えつつあった。
 奪うためではなく、守るために。
 恐れられる存在ではなく、頼られる存在へ。
 道のりは遠いけれど、セルジュ様が目指す理想のオルセリエ王国実現のために、私は日々奮闘したのだった。
 私が表に立つようになってから、セルジュ様はようやく休息の時間を持てるようになった。これ以上無理をしてほしくなくて、私が半ば強引に寝台に押し込んでいたようなものだけれど。
 その甲斐あってか、セルジュ様の顔色は日に日によくなっていた。
 削げ落ちていた輪郭の線は柔らかくなり、青白かった肌も血色がよくなった。
 目元のクマも薄くなり、疲労に濁っていた瞳は輝きを取り戻していった。
 徐々に活力が満ち、宝石のようにきらめく彼の眼差しには、思わず言葉を失うことさえあった。
 その美しさは、これまで見てきた彼の面影をすっかり塗り替えてしまうほどだった。
 そんなある夜、セルジュ様がぽつりと言った。
「近日中に、俺も市井に出ようと思う」
「……え?」
 各施設の状況の定期報告をするため訪れていた、セルジュ様の私室。書類を見ながら私の話を聞き終えた彼の口から発せられたのが、その言葉だった。
 きょとんとする私の目を見つめ返し、セルジュ様が穏やかに微笑む。
「君が公務をともに担ってくれるようになったおかげで、時間に余裕もできてきたし、体調も随分回復した。進めてきた施策がどこまで機能しているのか、この目で一度見ておきたいんだ。街道の警備状況や、民たちの暮らしぶりを」
「……さようでございますか。セルジュ様のお姿を見れば、きっと皆もその頼もしさに安心します。私も同行させてください」
 私がそう答えると、セルジュ様が苦笑する。
「頼もしい国王には、まだ程遠いがな。いまだ民たちに楽な暮らしをさせてやれてはいない」
「いいえ。セルジュ様ご自身が皆の前に出て行くことに、大きな意味がございますわ。前王と違い、自分たちの生活に寄り添ってくれる王なのだと確認できれば、民たちの受け止め方は変わるはずです。王家は皆の味方なのだと示しましょう」
 私が力説すると、セルジュ様がゆっくりと頷いた。
「そうだな。一緒に行こう、アリスティーヌ」
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