【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~

42.(sideロジーナ)

「わ、私は、多忙で神殿に行くことができなくても、毎朝毎晩必ず祈りを捧げております。ひとえに民たちの幸福を、その平穏な暮らしが続くことを願い……。私がこんなにも王国に、民たちに尽くしているのに、どんどん状況が悪くなっているなんて。私……、この状況について、ずっと考えていたんです」
 ディオネル様の目を意識して、か弱げにそう訴える。
 本当は考えてなどいなかった。民の暮らしや街の様子については報告を受けていたけれど、私自身は今も望むものを望むだけ手に入れられていたから。
 状況は一時的なもの、どうせそのうち上向くだろうと高を括っていた。
 だけどどうやら、考えていた以上に大事になりつつあるらしい。こうなったらもう、本気で一芝居打つ必要がある。
 私は一粒の涙を流し皆に見せつけると、そのまま目を閉じ、顔を覆った。
「この状況は、私のせいではありませんわ、ディオネル様。原因はアリスティーヌです。……いえ。いまだ私を受け入れずに彼女を慕い続ける、民たちの心の問題ですわ」
「……ロジーナ……」
 ディオネル様の困惑した声が聞こえる。私は顔を上げると彼を見つめ、潤んだ瞳で訴えた。
「これまで視察や慰問を繰り返してきて、民たちの言葉に真摯に耳を傾けてきた結果、気付いたのです。アリスティーヌは、王家の人間とは到底思えぬ振る舞いをしておりました。彼らの中に入り込み、同じ目線で語らい、王族も自分たち平民と変わらぬ存在なのだと、彼らに思わせてしまったのです」
 ディオネル様が、私の言葉に聞き入っている。
 神官長や大臣らはあ然とした表情をしているけれど、私は構わず語り続けた。
「王家とは、仰ぎ見るべきもの。民たちと一定の距離を保ち、その威光によって国を支える存在ですわ。その在り方を、アリスティーヌが崩してしまったのです」
 私は目を伏せ、がっくりと肩を落としてみせた。
「親しみやすさばかりが記憶に残り、民たちはいまだ彼女に心を寄せ、王家への敬意を失いつつあるのです……。その歪みが、今になってこの国に現れているのではないでしょうか。こんなに私が日々祈りを捧げているのに、誠意をもって慰問を繰り返してきたのに、開花しないなんておかしいもの……! うぅっ……」
 嗚咽し、しゃくり上げてみせると、ディオネル様が低く声を発した。
「……なるほどな。納得した。たしかにアリスティーヌのやり方はおかしかった。王族としてはあるまじき、威厳のない接し方だったからな。あいつのせいで、いまだ民たちはあの気安さを王家に求めているのだろう。……だが、そんなことではいざという時に統率がとれない」
 ディオネル様の口調は徐々に力強いものへと変わる。そして、自分の考えに確信を持ったかのように頷きながら、さらに言葉を続けた。
「ロジーナの加護の力が、なぜいまだに開花しないのか。それはアリスティーヌと、彼女を慕う民たちの心持ちのせいだ。この国に必要なのは、さらなる統制と、王家への忠誠の強化。民たちに、自らの立場を思い出させねばならん」
 大臣たちの顔が強張り、まるで異様なものを見るような目で私たちを凝視している。……この人たちにも、さらなる教育が必要ね。馬鹿にして。腹が立つわ。
 彼らの顔つきなど気にも留めず、ディオネル様は、はっきりと宣言した。
「よし、志を形として示させよう。貴族も民も例外なく、各家に相応の寄進を課す」
「……はっ?」
「へ、陛下……!」
 ざわめきが広がるのも構わず、彼は続けた。
「額は身分と家格に応じて定めるものとする。未達の者には罰を与えよう。罰金、あるいは労役でもいいな」
 そこで一度言葉を切ると、ディオネル様は薄く笑った。
「王家の加護のもとに生きているのだ。その程度の負担は当然であろう」
 すると、神官長が蒼白の顔で立ち上がった。
「陛下、寄進とは強制的に徴収するものではなく、自らの意志で行うものにございますぞ。それに、今の我が国の民たちには、あまりにも荷が重うございます」
 するとディオネル様は露骨に舌打ちをした。
「一度きりで済む話だ。民たちの考えを改めさせるための措置にすぎん。大袈裟な。真に王家を敬う心があれば、この程度の負担、惜しむはずもあるまい」
 そう言うと、ディオネル様はおもむろに立ち上がった。
「疲れた。詳細は午後から決めよう」
 皆が呆然とする中、ディオネル様は私を促し、退室しようと扉の方へ歩きはじめた。私もその後を追う。
 すると、あろうことか神官長が扉の前へと立ち塞がり、退室を阻んだ。
「……何のつもりだ、貴様」
 低く剣呑なディオネル様の声に、室内の空気が凍る。
 けれど、額に汗を浮かべた神官長は、引き下がることなく彼に言った。
「陛下、変革の力は、瓦解しかかった王国をも再構築するものだと伝えられております。……ですが、逆もまたしかり。変革の力を宿す妃がその献身と務めを怠れば、王国の平穏はたちどころに瓦解いたします」
「それを見た者がいるのか。百年以上、豊かに繁栄し平穏を保ち続けた我が国で、実際に見た者が」
 間髪を容れずに言い返すディオネル様に、神官長の言葉が弱くなる。
「……いえ。しかし伝承として、残っております」
「また伝承か。僕が最も嫌いな言葉だ。……下がれ。これ以上の無礼は許さん」
 そう吐き捨てると、ディオネル様は神官長を乱暴に押し退けて出て行った。私もその後に続く。
 通り過ぎる瞬間ちらりと目をやると、神官長や大臣たちが皆、敵意にも似た強い眼差しで私たちをとらえていた。

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