【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
44.
忙しくも幸せな毎日が、目まぐるしく過ぎていく。
セルジュ様と本当の意味での夫婦になってから、私の人生は陽光を浴びた水面のように、きらきらと輝きはじめた。
彼は最初の夜からとても優しくて、何も知らない私の体を、ゆっくりと解いていってくれた。
愛に満ちた彼の仕草の一つひとつが、私の心をときめかせ、とろけさせた。
私はますます公務に奮闘した。
ようやく得たこの安寧に慢心し、自分の義務を怠ってはいけない。今のセルジュ様との幸せな日々を、そしてオルセリエの民たちの平穏な暮らしを守っていくためには、謙虚な心と誠実な献身が何より大切なのだから。
(王宮の皆もセルジュ様も、やっと心穏やかな日々を過ごしはじめたんだもの。皆のこの笑顔を、私が守っていかなくちゃ……!)
これまでと変わらず各施設への慰問を繰り返し、私は彼らの暮らしを確認して回った。
市井の生活環境は大きく改善されたとはいえ、行き場を失った人々で溢れかえった養護施設や救護院の状況改善は、何よりの急務だった。
民たちの暮らしが安定しはじめた今、私は施設で暮らす人々の働き口と、住居の確保に奔走した。
農地や工房、商家などに対し、職を持たぬ者たちを順次受け入れてもらえるよう交渉を繰り返す。
人手を求める側と働ける人材を繋ぐことで、施設を出ていける者は少しずつ増えていった。
さらに、放置されていた土地を新たな開拓地として整備することにした。
希望者を募って移住を促し、住まいと当面の食料、農具などの初期費用は王家が負担しつつ、軌道に乗るまで支援を続けていく。
やがてそこには、小さな村が形を成しはじめた。
また、非力な女性や子どもたちにも、無理のない形で働ける場を用意していった。
縫製や簡単な加工など、手先を使う作業を王宮から直接発注することで、安定した収入を得られるようにする。そうして作られた品を王宮内で使用する他、各地へと流通させていった。
自分の力で生きていけるという実感は、人々の表情を明るくし、オルセリエ王国はますます活気づいていった。
けれど一方で、私の母国エヴァンシアの状況については、あまり良くない話を耳にするようになっていた。
商人たちからは、関所での徴収が急に厳しくなった、街道の治安が悪くなった、先方の支払いが滞りはじめたなどの話を聞くようになった。また、エヴァンシアとの取引を打ち切るオルセリエの貴族や商会も増えていた。かの国を出て近隣諸国に流れる民たちまでいるらしい。
エヴァンシアの国内情勢が悪化している。私もセルジュ様も、そのことを察してはいた。
そんなある日の深夜のこと。
夫婦の寝室でセルジュ様を待ちながら、私は開拓地関連の報告書に目を通し、入植者の人数や作物の生育状況を確認していた。……はずだった。
けれどふと気付くと、体がふわふわと宙を漂っているような、言いようのない心地良さに包まれていた。
「……セルジュ、様……?」
重い瞼を持ち上げると、視界に入ったのは、大好きな人の顔。
そして次の瞬間、自分が彼に横抱きにされ、運ばれている最中なのだと気付いた。
こちらを見下ろすセルジュ様と目が合うと、彼は困ったように眉を寄せ、小さく笑った。
「本当に……、君は放っておくとどこまでも頑張ってしまう人だな」
そう言うとセルジュ様は、私を寝台の上に優しく下ろす。まるで壊れ物を扱うように、とても丁寧に。
セルジュ様が私の上に重なり合うような体勢になり、心臓が跳ね、顔が熱くなる。
「ご、ごめんなさい。お戻りになっていることに気付かないなんて……。私ったら」
「それだけ疲れているんだよ。今日はもういいから、一緒に休もう、アリス。ここからは夫婦の時間だ」
セルジュ様はそう言うと、私の髪を愛おしげに撫で、軽く唇を重ねた。心地よい体温に、胸が甘く痺れる。
「……俺は王妃としての君だけでなく、妻としてのアリスも大切にしたいんだ」
優しい言葉に、ますます頬が熱を持つ。
「……私は、こんな風に甘やかされることに慣れていないんです……。どうしていいか分からなくなるので、そんなにじっと見つめないでください」
至近距離にある端整なお顔と眼差しに耐えきれず、私は両手で顔を覆った。セルジュ様がくすくすと笑う。
「君は本当に可愛いな、アリス」
……こうして「アリス」と呼ばれることにさえ、まだ慣れていないのだ。私を呼ぶセルジュ様の声は慈愛に満ちていて、胸の奥を優しくくすぐる。
(本当に……毎日が夢みたいだわ。こんなに幸せな日々が訪れるなんて)
その声と愛撫にうっとりしていると、ふいに彼の体が私から離れた。
セルジュ様が立ち上がり、部屋の灯りを落としに行くと、寝室は淡い闇に包まれた。ほのかな月明かりが、カーテン越しに差し込む。
そばに戻ってきて隣に身を横たえたセルジュ様が、ためらうことなく私の夜着のリボンを解く。
「セ、セルジュ様? お休みになるのでは……」
彼だって、今日は丸一日忙しかったはずだ。施策の可否の判断や、交易条件の調整に関する会議に、貴族らとの謁見。食事をともにする時間を合わせられないほど、セルジュ様の予定も立て込んでいた。
それなのにセルジュ様は、当然のように私の夜着を開いていく。すぐに休むような口ぶりだったのに。
私の言葉に苦笑しながら、彼が耳元で囁く。
「そのつもりだったが、君の顔を見たら考えが変わった」
吐息がかかり、腰の辺りがぞくりとする。
「眠る前に少しだけ、君を独占する時間をくれ」
艶を帯びた声に照れてしまい、返事をすることができず、私は彼を見つめ小さく頷いたのだった。
セルジュ様と本当の意味での夫婦になってから、私の人生は陽光を浴びた水面のように、きらきらと輝きはじめた。
彼は最初の夜からとても優しくて、何も知らない私の体を、ゆっくりと解いていってくれた。
愛に満ちた彼の仕草の一つひとつが、私の心をときめかせ、とろけさせた。
私はますます公務に奮闘した。
ようやく得たこの安寧に慢心し、自分の義務を怠ってはいけない。今のセルジュ様との幸せな日々を、そしてオルセリエの民たちの平穏な暮らしを守っていくためには、謙虚な心と誠実な献身が何より大切なのだから。
(王宮の皆もセルジュ様も、やっと心穏やかな日々を過ごしはじめたんだもの。皆のこの笑顔を、私が守っていかなくちゃ……!)
これまでと変わらず各施設への慰問を繰り返し、私は彼らの暮らしを確認して回った。
市井の生活環境は大きく改善されたとはいえ、行き場を失った人々で溢れかえった養護施設や救護院の状況改善は、何よりの急務だった。
民たちの暮らしが安定しはじめた今、私は施設で暮らす人々の働き口と、住居の確保に奔走した。
農地や工房、商家などに対し、職を持たぬ者たちを順次受け入れてもらえるよう交渉を繰り返す。
人手を求める側と働ける人材を繋ぐことで、施設を出ていける者は少しずつ増えていった。
さらに、放置されていた土地を新たな開拓地として整備することにした。
希望者を募って移住を促し、住まいと当面の食料、農具などの初期費用は王家が負担しつつ、軌道に乗るまで支援を続けていく。
やがてそこには、小さな村が形を成しはじめた。
また、非力な女性や子どもたちにも、無理のない形で働ける場を用意していった。
縫製や簡単な加工など、手先を使う作業を王宮から直接発注することで、安定した収入を得られるようにする。そうして作られた品を王宮内で使用する他、各地へと流通させていった。
自分の力で生きていけるという実感は、人々の表情を明るくし、オルセリエ王国はますます活気づいていった。
けれど一方で、私の母国エヴァンシアの状況については、あまり良くない話を耳にするようになっていた。
商人たちからは、関所での徴収が急に厳しくなった、街道の治安が悪くなった、先方の支払いが滞りはじめたなどの話を聞くようになった。また、エヴァンシアとの取引を打ち切るオルセリエの貴族や商会も増えていた。かの国を出て近隣諸国に流れる民たちまでいるらしい。
エヴァンシアの国内情勢が悪化している。私もセルジュ様も、そのことを察してはいた。
そんなある日の深夜のこと。
夫婦の寝室でセルジュ様を待ちながら、私は開拓地関連の報告書に目を通し、入植者の人数や作物の生育状況を確認していた。……はずだった。
けれどふと気付くと、体がふわふわと宙を漂っているような、言いようのない心地良さに包まれていた。
「……セルジュ、様……?」
重い瞼を持ち上げると、視界に入ったのは、大好きな人の顔。
そして次の瞬間、自分が彼に横抱きにされ、運ばれている最中なのだと気付いた。
こちらを見下ろすセルジュ様と目が合うと、彼は困ったように眉を寄せ、小さく笑った。
「本当に……、君は放っておくとどこまでも頑張ってしまう人だな」
そう言うとセルジュ様は、私を寝台の上に優しく下ろす。まるで壊れ物を扱うように、とても丁寧に。
セルジュ様が私の上に重なり合うような体勢になり、心臓が跳ね、顔が熱くなる。
「ご、ごめんなさい。お戻りになっていることに気付かないなんて……。私ったら」
「それだけ疲れているんだよ。今日はもういいから、一緒に休もう、アリス。ここからは夫婦の時間だ」
セルジュ様はそう言うと、私の髪を愛おしげに撫で、軽く唇を重ねた。心地よい体温に、胸が甘く痺れる。
「……俺は王妃としての君だけでなく、妻としてのアリスも大切にしたいんだ」
優しい言葉に、ますます頬が熱を持つ。
「……私は、こんな風に甘やかされることに慣れていないんです……。どうしていいか分からなくなるので、そんなにじっと見つめないでください」
至近距離にある端整なお顔と眼差しに耐えきれず、私は両手で顔を覆った。セルジュ様がくすくすと笑う。
「君は本当に可愛いな、アリス」
……こうして「アリス」と呼ばれることにさえ、まだ慣れていないのだ。私を呼ぶセルジュ様の声は慈愛に満ちていて、胸の奥を優しくくすぐる。
(本当に……毎日が夢みたいだわ。こんなに幸せな日々が訪れるなんて)
その声と愛撫にうっとりしていると、ふいに彼の体が私から離れた。
セルジュ様が立ち上がり、部屋の灯りを落としに行くと、寝室は淡い闇に包まれた。ほのかな月明かりが、カーテン越しに差し込む。
そばに戻ってきて隣に身を横たえたセルジュ様が、ためらうことなく私の夜着のリボンを解く。
「セ、セルジュ様? お休みになるのでは……」
彼だって、今日は丸一日忙しかったはずだ。施策の可否の判断や、交易条件の調整に関する会議に、貴族らとの謁見。食事をともにする時間を合わせられないほど、セルジュ様の予定も立て込んでいた。
それなのにセルジュ様は、当然のように私の夜着を開いていく。すぐに休むような口ぶりだったのに。
私の言葉に苦笑しながら、彼が耳元で囁く。
「そのつもりだったが、君の顔を見たら考えが変わった」
吐息がかかり、腰の辺りがぞくりとする。
「眠る前に少しだけ、君を独占する時間をくれ」
艶を帯びた声に照れてしまい、返事をすることができず、私は彼を見つめ小さく頷いたのだった。