【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
46.
自分の執務室に戻った私は、早速返信の文面を整え、侍女に託した。
(ロジーナの加護の力は、結局開花しないままだったのね……。こんな時こそ、彼女の持つ変革の力が正しく作用すれば、エヴァンシアを救うことができたはずなのに……)
ベルロワ侯爵領にいるはずの父母と兄、そして、私に役目を託してくださった王太后であるディオネル様の母上のことが、心配でならなかった。
そして、エヴァンシアの民たちのことも……。
けれど、その後もエヴァンシア王国の状況は、悪化の一途を辿るばかりのようだった。
我が国だけではなく近隣の国々も、エヴァンシアとの取引を停止したという報告が、次々に入ってきた。
騎士団長のヴォルグからも、国境の状況について報告を受けた。
「エヴァンシアから越境してくる者が、日に日に増えております。徴税や食糧不足に耐えかね、国を捨て逃げてきたと話している者ばかりです」
「そう……」
短く答えながら、胸の内は重くなる。私の家族は、無事でいるのだろうか。
「国境で足止めし、身元の確認は行っているのだな?」
セルジュ様が問うと、ヴォルグは間髪を容れずに答える。
「はい。労働力となる者も多くいますが、無条件に受け入れるわけにはまいりませんので。……とはいえ、無理に押し返して周辺が荒れる事態となるのも、避けたいところです」
「……とても心苦しいけれど、選別は必要ね。身元がはっきりしている者、そして働く意思と能力のある者を、優先して受け入れましょう」
私がそう言うと、セルジュ様が首肯する。
「いくつかの領地からは、まだ受け入れが可能だとの返答が来ている。各領地に、開拓地や工房……。人手を求めているところに、調整して振り分けていこう」
こうして、エヴァンシアからの移民についても話し合いを重ねる日々が続いた。
国境を越えてくる者の数は徐々に増え、各地への振り分けや受け入れ先との調整に追われることも多くなっていく。それでも、現場の働きと周到な準備のおかげで、大きな混乱を招くことなく事態は保たれていた。
そんなやり取りを続けること数週間──。
ある日、王宮内の各所への用事を済ませ、私の執務室へと戻ってきたロゼルが、困惑した面持ちでそばへとやってきた。
「アリスティーヌ様、書簡を持ってまいりました。エヴァンシア国王より、今回はアリスティーヌ様個人宛てのものでございます」
「……私に?」
ペンを走らせていた私は、その言葉に顔を上げた。
差し出された書簡の封を切り、便箋を開く。
【アリスティーヌ
どうか助けてくれ。もう時間がない。
エヴァンシア国内は崩壊寸前だ。各地の暴動は激化し、貴族たちの間でも不穏な動きが広がっている。このままでは、僕はまもなく玉座を追われる。……いや、それだけではきっと済まない。命すら奪われるだろう。
こんなことになるなんて、思ってもみなかったんだ。
今さらだが、ようやく分かった。お前がどれほど大切な存在だったのか。僕は何一つ理解していなかった。失って初めて、お前の価値に気付いたんだ。
ロジーナは全く役に立たない。あいつは廃妃にする。僕の妃はお前だけだ。
だから、戻ってきてくれ。
お前の力がなければ、この国はもう立て直せない。僕一人ではどうにもならないんだ。
どうか頼む、アリスティーヌ。
もう一度この国を、この僕を救ってくれ。
お前の帰還を、心から待っている。
ディオネル】
読み終えた私は、深く息をついた。
一国の王ともあろう人が、なんと情けない。体中の力が抜けそうだ。
あれほど一方的に、自分に都合のいい大義名分をつらつらと並べ、尊大な態度で私を切り捨てたディオネル様。そんな彼が、今や見苦しく私に縋り付いてきている。
(……今さらそんなことを言われましても。私はもうこのオルセリエで、自分の生きる道を確立したのです)
心の中で、私はディオネル様にそう語りかける。
あなたが追いやったこの国で、私は懸命に働いたのです。
そして、このオルセリエの民たちは、私を受け入れてくれました。
私を信じ、愛してくれる人たちのために、私はこれからもここで生きていきます。
ですからもう、あなたのもとに戻ることはありません。
(……さようなら、ディオネル様)
返事は出さなかった。彼とロジーナの行く末は、もう見えている。
(ロジーナの加護の力は、結局開花しないままだったのね……。こんな時こそ、彼女の持つ変革の力が正しく作用すれば、エヴァンシアを救うことができたはずなのに……)
ベルロワ侯爵領にいるはずの父母と兄、そして、私に役目を託してくださった王太后であるディオネル様の母上のことが、心配でならなかった。
そして、エヴァンシアの民たちのことも……。
けれど、その後もエヴァンシア王国の状況は、悪化の一途を辿るばかりのようだった。
我が国だけではなく近隣の国々も、エヴァンシアとの取引を停止したという報告が、次々に入ってきた。
騎士団長のヴォルグからも、国境の状況について報告を受けた。
「エヴァンシアから越境してくる者が、日に日に増えております。徴税や食糧不足に耐えかね、国を捨て逃げてきたと話している者ばかりです」
「そう……」
短く答えながら、胸の内は重くなる。私の家族は、無事でいるのだろうか。
「国境で足止めし、身元の確認は行っているのだな?」
セルジュ様が問うと、ヴォルグは間髪を容れずに答える。
「はい。労働力となる者も多くいますが、無条件に受け入れるわけにはまいりませんので。……とはいえ、無理に押し返して周辺が荒れる事態となるのも、避けたいところです」
「……とても心苦しいけれど、選別は必要ね。身元がはっきりしている者、そして働く意思と能力のある者を、優先して受け入れましょう」
私がそう言うと、セルジュ様が首肯する。
「いくつかの領地からは、まだ受け入れが可能だとの返答が来ている。各領地に、開拓地や工房……。人手を求めているところに、調整して振り分けていこう」
こうして、エヴァンシアからの移民についても話し合いを重ねる日々が続いた。
国境を越えてくる者の数は徐々に増え、各地への振り分けや受け入れ先との調整に追われることも多くなっていく。それでも、現場の働きと周到な準備のおかげで、大きな混乱を招くことなく事態は保たれていた。
そんなやり取りを続けること数週間──。
ある日、王宮内の各所への用事を済ませ、私の執務室へと戻ってきたロゼルが、困惑した面持ちでそばへとやってきた。
「アリスティーヌ様、書簡を持ってまいりました。エヴァンシア国王より、今回はアリスティーヌ様個人宛てのものでございます」
「……私に?」
ペンを走らせていた私は、その言葉に顔を上げた。
差し出された書簡の封を切り、便箋を開く。
【アリスティーヌ
どうか助けてくれ。もう時間がない。
エヴァンシア国内は崩壊寸前だ。各地の暴動は激化し、貴族たちの間でも不穏な動きが広がっている。このままでは、僕はまもなく玉座を追われる。……いや、それだけではきっと済まない。命すら奪われるだろう。
こんなことになるなんて、思ってもみなかったんだ。
今さらだが、ようやく分かった。お前がどれほど大切な存在だったのか。僕は何一つ理解していなかった。失って初めて、お前の価値に気付いたんだ。
ロジーナは全く役に立たない。あいつは廃妃にする。僕の妃はお前だけだ。
だから、戻ってきてくれ。
お前の力がなければ、この国はもう立て直せない。僕一人ではどうにもならないんだ。
どうか頼む、アリスティーヌ。
もう一度この国を、この僕を救ってくれ。
お前の帰還を、心から待っている。
ディオネル】
読み終えた私は、深く息をついた。
一国の王ともあろう人が、なんと情けない。体中の力が抜けそうだ。
あれほど一方的に、自分に都合のいい大義名分をつらつらと並べ、尊大な態度で私を切り捨てたディオネル様。そんな彼が、今や見苦しく私に縋り付いてきている。
(……今さらそんなことを言われましても。私はもうこのオルセリエで、自分の生きる道を確立したのです)
心の中で、私はディオネル様にそう語りかける。
あなたが追いやったこの国で、私は懸命に働いたのです。
そして、このオルセリエの民たちは、私を受け入れてくれました。
私を信じ、愛してくれる人たちのために、私はこれからもここで生きていきます。
ですからもう、あなたのもとに戻ることはありません。
(……さようなら、ディオネル様)
返事は出さなかった。彼とロジーナの行く末は、もう見えている。