【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
8.
その後前王妃陛下は、王宮からはるか南方にある離宮へと、居住を移された。
王妃の役割譲渡の儀式から、わずか二週間後のことだった。執務室で専属侍女からその事後報告を受けた時、私はしばし、あ然とした。
私の知らないうちに、前王妃陛下は王宮から去っていたのだ。あまりにも急なことで、きちんとご挨拶をする暇もなかった。
「一体なぜ、こんなに突然……。前王妃陛下からは、そんなご予定だとのお話は、一度も聞いていなかったわ。前国王陛下の葬儀の後にも、何度かお話をする機会はあったのに……」
机の前で羽根ペンを持ったまま、ショックのあまりそう口にした私に、目の前の侍女も悲しそうな顔をした。
「私どもも、誰一人存じ上げませんでした。というよりも、本当に突然決まったことのようです。国王陛下のご指示により、急遽(きゅうきょ)ご出発なさったようで……。皆動揺しております」
「……ディオネル様の……?」
私は思わず眉をひそめた。
私の王妃としての務めはまだ始まったばかりで、前王妃陛下の助力を仰ぎたい場面は、これからきっとたくさん出てくるはずだ。前王妃陛下から直接受ける王妃教育だって、まだ続けたかった。多くの経験と高潔な志を持つあのお方からは、学ぶことが数多くあった。
(何より、頑なに私を拒絶し続け公務まで疎かになさるディオネル様を諌めてくださる最後の砦が、前王妃陛下だったのよ。前国王陛下がこの世を去った今、あの方がいてくださることには、王宮内の均衡を保つ大きな意味合いもあったというのに……)
ディオネル様は、一体何を考えているのか。
不安と不信感が胸を覆う中、それでも王妃としての務めを果たそうと奮闘している私のもとに、突如信じられない通達が下された。
それは私が王妃になってから、ほんの一ヶ月後のことだった。
その日、いつものように早朝に起き身支度を整えた私は、神殿へ行き、祈りを捧げた。以前は王太子妃の私室で朝晩の祈りを行っていたけれど、王妃の座に就いてからというもの、朝は神殿へ赴くことが日課となっていた。
全ての民たちの平穏な生活と幸せを深く祈り、王宮へ戻る。
その後朝食を済ませ、報告書に目を通していると、私の専属侍女の一人が執務室へと入ってきた。
「アリスティーヌ様、国王陛下がお呼びでございます」
「……そう。どちらへ行けばいいのかしら。ディオネル様の私室?」
向こうから呼び出しとは、珍しいこともあるものだわ。せっかくだから、仕事の割り振りのことも相談したいな。私に回ってくる書類の量が、さすがに多すぎるもの。ディオネル様にももう少し働いていただかなくては。
頭の片隅でそんなことを考えながら、私は書類に目を走らせつつ、侍女にそう尋ねた。
「それが……国事の謁見の間だそうでございます」
「……え?」
聞き間違いかと思い、顔を上げた。侍女の表情には、困惑と不安が広がっていた。
国事の謁見の間とは、王宮内で最も格式高い謁見の場を指す。国王が私的な面会ではなく、王族としての意思を示す時に用いられ、国外からの王族や使節を出迎える時にも、必ずこの間が使われていた。
(なぜ、わざわざ私をその場所に……?)
誰か来訪しているのなら、そういう知らせが先に届いているはずだ。そもそも、そんな重要人物の来訪予定は入っていない。
「……分かりました。すぐに向かいます。準備を」
「は、はい」
不穏な空気を感じ取ったのか、執務室にいた他の侍女や使用人たちまでもが、一様に動揺を見せる。私は彼女たちを安心させるように笑みを浮かべ、静かに席を立った。
王妃の役割譲渡の儀式から、わずか二週間後のことだった。執務室で専属侍女からその事後報告を受けた時、私はしばし、あ然とした。
私の知らないうちに、前王妃陛下は王宮から去っていたのだ。あまりにも急なことで、きちんとご挨拶をする暇もなかった。
「一体なぜ、こんなに突然……。前王妃陛下からは、そんなご予定だとのお話は、一度も聞いていなかったわ。前国王陛下の葬儀の後にも、何度かお話をする機会はあったのに……」
机の前で羽根ペンを持ったまま、ショックのあまりそう口にした私に、目の前の侍女も悲しそうな顔をした。
「私どもも、誰一人存じ上げませんでした。というよりも、本当に突然決まったことのようです。国王陛下のご指示により、急遽(きゅうきょ)ご出発なさったようで……。皆動揺しております」
「……ディオネル様の……?」
私は思わず眉をひそめた。
私の王妃としての務めはまだ始まったばかりで、前王妃陛下の助力を仰ぎたい場面は、これからきっとたくさん出てくるはずだ。前王妃陛下から直接受ける王妃教育だって、まだ続けたかった。多くの経験と高潔な志を持つあのお方からは、学ぶことが数多くあった。
(何より、頑なに私を拒絶し続け公務まで疎かになさるディオネル様を諌めてくださる最後の砦が、前王妃陛下だったのよ。前国王陛下がこの世を去った今、あの方がいてくださることには、王宮内の均衡を保つ大きな意味合いもあったというのに……)
ディオネル様は、一体何を考えているのか。
不安と不信感が胸を覆う中、それでも王妃としての務めを果たそうと奮闘している私のもとに、突如信じられない通達が下された。
それは私が王妃になってから、ほんの一ヶ月後のことだった。
その日、いつものように早朝に起き身支度を整えた私は、神殿へ行き、祈りを捧げた。以前は王太子妃の私室で朝晩の祈りを行っていたけれど、王妃の座に就いてからというもの、朝は神殿へ赴くことが日課となっていた。
全ての民たちの平穏な生活と幸せを深く祈り、王宮へ戻る。
その後朝食を済ませ、報告書に目を通していると、私の専属侍女の一人が執務室へと入ってきた。
「アリスティーヌ様、国王陛下がお呼びでございます」
「……そう。どちらへ行けばいいのかしら。ディオネル様の私室?」
向こうから呼び出しとは、珍しいこともあるものだわ。せっかくだから、仕事の割り振りのことも相談したいな。私に回ってくる書類の量が、さすがに多すぎるもの。ディオネル様にももう少し働いていただかなくては。
頭の片隅でそんなことを考えながら、私は書類に目を走らせつつ、侍女にそう尋ねた。
「それが……国事の謁見の間だそうでございます」
「……え?」
聞き間違いかと思い、顔を上げた。侍女の表情には、困惑と不安が広がっていた。
国事の謁見の間とは、王宮内で最も格式高い謁見の場を指す。国王が私的な面会ではなく、王族としての意思を示す時に用いられ、国外からの王族や使節を出迎える時にも、必ずこの間が使われていた。
(なぜ、わざわざ私をその場所に……?)
誰か来訪しているのなら、そういう知らせが先に届いているはずだ。そもそも、そんな重要人物の来訪予定は入っていない。
「……分かりました。すぐに向かいます。準備を」
「は、はい」
不穏な空気を感じ取ったのか、執務室にいた他の侍女や使用人たちまでもが、一様に動揺を見せる。私は彼女たちを安心させるように笑みを浮かべ、静かに席を立った。