死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「し、失礼いたしました。娘がとんだご無礼を。紹子、謝りなさい」

 父親に叱られた紹子さんは、拗ねるような面持ちのまま「すみませんでした」と口にした。

「申し訳ありません。我々はこれで失礼いたします」

 萬代一家はそそくさと頭を下げると、逃げるようにその場をあとにした。
 最後まで振り返らなかった紹子さんの背中を見ながら、私はようやくホッと息を吐き出す。

「まったく、見苦しいな」

 嵯峨野伯爵は、去っていく三人の背中を見ながら、あきれたようにつぶやいた。

「天澤くん、はっきり言っておこう。うちは、これからも変わらず天澤製薬との取引を続けていくつもりだ。……いや、むしろ今日の琴乃さんの姿を見て、もっと深く付き合いたいと思ったくらいだよ」
「感謝いたします」

 篤志さんが深く頭を下げると、嵯峨野伯爵は満足そうに笑みをたたえた。

「琴乃さん、素晴らしかったわ」

 伯爵夫人が私に近づき、そっと手を取った。

「今日のことは、私からもきちんと周りに伝えておきますからね。噂なんて気にしちゃダメよ」
「ありがとうございます」

 頭を下げながら、伯爵夫妻の温かい言葉に感動して胸が熱くなる。
 あれほど辛辣だった紹子さんの言葉も、少しずつ洗い流されていくようだった。
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