死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「正しい知識は、家族を病から守るための盾なんです」

 私は毅然とした態度でそう言い切った。
 紹子さんは口を開きかけたが、言葉にならなかったのだろう。そのまま唇を噛んでうつむいてしまった。

「ハンカチで口もとを覆って遠ざけたくなりますよね。ですが、それではいつまで経っても、本当に大切な人を守ることはできないと思います」

 私が言い終えた瞬間、場の空気が張りつめ、しんとした沈黙が流れた。
 紹子さんは顔を真っ赤にしてうつむいたままだ。ハンカチが手の中で所在なさげに揺れている。
 先ほどまでの勝ち誇ったような表情はどこにもなく、唇がかすかに震えているのが見えた。
 そばにいた萬代夫妻は気まずそうに視線を彷徨わせるばかりで、何も言えずにいる。

「……お見事」

 静寂を破ったのは、それまで黙って見守っていた嵯峨野伯爵の声だった。

「琴乃さん、あなたは本当に信念のある方だ」

 それを聞いた伯爵夫人も、感心したようにうなずきながら微笑んでいる。

「これほどしっかりとした奥方を、‟縁起が悪い”などと嫌うほうが、よほど恥ずべきことでしょうね」

 萬代氏の顔が見る見るうちに青ざめていく。
 萬代薬品の利益のために、嵯峨野伯爵にこびるつもりでやってきたのに、完全にあてが外れたのだろう。
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