死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 それでも今日、その傷と正面から向き合うことができた。
 謂れのない中傷を跳ねのけることができた。
 それは、これまでにないたしかな手応えだった。

「琴乃、入ってもいいか?」

 部屋の外から篤志さんの声がした。

「どうぞ」

 返事をすると、篤志さんが静かに部屋へ入ってきた。
 入浴を済ませたのか、髪がまだ濡れていて、いつもよりくつろいだ様子だった。

「大丈夫か?」
「はい。……少し、疲れましたけど」

 そう答えながらも、無理に笑おうとした私の表情は引きつっていたのだろう。
 彼は苦笑いをして、ゆっくりと私のそばまで歩み寄ってきた。

「今日は本当によくがんばったな」

 あっという間に彼の大きな腕が私の身体を包み込んだ。
 これまでのように軽く肩を抱き寄せるのとは違う抱擁だ。

「あ……」

 突然のことに、私は身体をこわばらせてしまう。
 だけど、彼の胸に顔を埋めるようにして抱きしめられているうちに、ゆっくりと力が抜けていくのがわかった。

「つらかっただろう」

 着物越しに伝わる篤志さんの体温と、かすかに香る石鹸の匂いに包まれていると、これまで気を張って抑え込んでいたものが、少しずつ表に滲み出てくるのがわかった。

「そうですね。……でも」

 声が震えて、うまく言葉が出てこない。
 彼は、そんな私の背中をゆっくりと撫で続けてくれた。
 その手のひらの大きさと温もりを感じていると、安心してすべてを預けてしまいたくなる。
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