死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「でも、旦那様が私を守ってくださったから。それに……自分の言葉で、ちゃんと立ち向かうことができたから。悔しさよりも、誇らしい気持ちのほうが大きいです」
「そうか」

 篤志さんは私の頭にそっと顎を乗せるようにして、深く息を吐いた。

「琴乃は本当に強い人だな」
「強くなんてありません。今もこうして震えているのに……」
「強さというのは、そういうことじゃない。怖くても前を向けることだ」

 彼の言葉が、私の心にしっかりと響いた。
 これまでの私は、つらいことがあっても、ひとりで抱え込んで乗り越えることばかり考えてきた。
 父の醫院を継げなかったときも、実家を追われるように天澤家へ嫁いだときも、義家族から冷たくされたときも。すべてを誰かに託して寄りかかるという選択肢が、自分の中にはなかった。

 だけど今は、震えている今の自分をそのまま受け止めてくれる人がいる。
 ひとりじゃない。つらいとき、たまには寄りかかっていいんだ。
 抱きしめられたまま、私は篤志さんの規則正しい鼓動に耳を傾けた。
 この温もりの中にいると、あれほど渦巻いていた悲しさや悔しさの気持ちが、少しずつ癒えていくのがわかる。

「もう二度と、琴乃にこんな思いをさせないようにする」

 彼は私の髪をそっと撫でながら、決意するようにつぶやいた。
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