死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「ねぇ、あのときどうして助けてくれたの? 私の吐いたものが手に付いても、嫌な顔ひとつしなかったね」

 その声は叱られたあとの子どものように小さく、かすかに震えていた。怯えているようにも見える。
 私は彼女を怖がらせないよう、できるだけ自然に微笑んでみせた。

「家族だから当然ですよ」
「……家族」

 千草さんは私の言葉を聞き、噛みしめるようにもう一度つぶやいた。
 その横顔にはとまどいと、どこか泣きそうな気配が滲んでいる。

「私、あんなにひどいことしたのに」

 申し訳なさそうに肩を落とす千草さんを見て、私の胸にもチクリと痛みが走った。
 燃やされた本のことを思い出すと傷がうずく。まだ完全に癒えたとは言えない。
 だけど、今こうして向き合おうとしてくれている彼女の姿を見ていると、それ以上に許す気持ちのほうが強くなっているのがわかった。

「あの本には、急病人が出たときの看病の方法がくわしく書かれてあったんですよ」

 静かにそう告げると、千草さんが涙目になってこちらを向いた。

「しかも、亡くなったお父様の形見だったんでしょう? 私、知らなくて。大事な本だったのに……ごめんなさい」

 消え入りそうな声でそう言い、千草さんが頭を下げた。初めて聞く彼女からの謝罪だ。
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