死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「千草さん……」

 私は彼女の隣にそっとしゃがみ込む。花の蕾はまだ固く閉じたままだった。

「あの本、実は難しい医学の専門書ではなくて、わかりやすく誰でも読める内容なんです。もし千草さんが興味を持ってくださるなら、また同じものを本屋で探してみましょうか」
「え……」

 千草さんは目を丸くして私を見た。まるで、思いもよらない申し出をされたとでもいうように。

「私が、本を買っても……」
「ダメな理由なんて、どこにもありませんよ」

 私がそう言うと、千草さんの瞳がゆらゆらと揺れ始めた。
 しばらく口を開けたり閉じたりを繰り返していたけれど、やがて堰を切ったように、彼女は本音を語り始めた。

「本当は子どものころからずっと……お兄様が本を読んでいるのを見て、私も読みたかったの。でも、お父様の前で本を開くと、いつも嫌そうな顔をされたわ。女が学問に励んでどうする、もっとほかにやることがあるだろうって」

 千草さんの話に耳を傾け、ウンウンとうなずいた。
 私の父は本好きだった私を咎めることはしなかったけれど、天澤のお義父様のような考えは世間一般的だと言っても過言ではない。

「だから、いつのまにか本を読むこと自体、恥ずかしいことのように思うようになって……」

 千草さんの声が、これまでにないくらい切実に響く。
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