死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 大型の本屋に着くと、千草さんは初めのうちこそ遠慮がちに本棚を眺めていたけれど、次第に目を輝かせながら、あちこちの棚に手を伸ばし始めた。
 そして、突然一冊の本を胸に抱え、違う棚を見ていた私のもとへやって来る。

「お義姉様、これ!」

 見せられたのは、かつて父が残したのと同じ本――『家庭醫學新書』だった。

「ねぇ、買いましょう! 私も読んでみたいわ。今度は絶対大事にする。約束するわ」
 
 彼女の真剣な表情を見て、その言葉に嘘はないと確信した。
 キラキラとした瞳がまぶしい。この本はきっと、今度は千草さんの役にも立ってくれることだろう。

 千草さんが本を選んでいる様子を少し離れた場所で見守っていると、隣に立つ篤志さんが静かに口を開いた。

「琴乃のおかげだな。アイツがあんなふうに楽しそうにするのは、久しぶりに見た」
「私は少しお話を聞いただけです」
「家族において、それは意外と難しい」

 篤志さんの真っすぐな視線が、私の瞳を射貫いた。

「今までひどい態度を取ってきたにもかかわらず、妹に歩み寄ってくれて、ありがとう」

 慈愛のこもった篤志さんの大きな手が、私の手にそっと重なった。
 人目のある場所だというのに、彼はそのまま指先を軽く絡めるようにして、しばらく離そうとしなかった。
 心臓が飛び跳ねるように高鳴って、頬が熱くなっていくのが自分でもわかる。
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