死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「琴乃、事情は聞いた。俺も行く」
「旦那様も……?」
「ひとりで行かせられるわけがないだろう」

 篤志さんは有無を言わせぬ様子で上着を羽織ると、私の背に手を添えて車へと促す。
 本当は不安だったから、彼が一緒に来てくれるのはとても心強かった。

 夜道を走る車の中、私はずっと膝の上で両手を握りしめていた。
 冬馬くんの容態がどれほど悪いのか、行ってみるまでわからない。
 私は医者ではない。行っても何もできなかったらどうしよう――。
 悪いほうに考えてしまい、不安が次から次へと押し寄せてくる。

「大丈夫だ」

 篤志さんが、私の手に自分の手をそっと重ね、指を絡めるようにしっかりと握り込んだ。
 その力強さで、ぐらついていた心がしっかりと立ち戻っていく。

「食中毒のときのように、琴乃の的確な看病の様子を見たら、姉も気持ちが落ち着くだろう」

 私を信じる彼の思いが真っすぐに伝わってきた。
 握られた手のひらから、彼の体温が流れ込んでくるみたいで、不思議と不安が消えていく。
 
「……はい。ありがとうございます」

 私は小さくうなずき、車が到着するまでのあいだ、ずっとその手を離さずにいた。

 井原邸に着くと、鈴子さんをはじめ、彼女の義両親にあたる井原伯爵夫妻が玄関先で悲痛な顔をして待っていた。
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