死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「琴乃さん、ありがとう。あなたがいなかったらどうなっていたか……。本当にありがとう!」

 私の手を強く握りしめて、何度も頭を下げる鈴子さんの姿に胸を打たれた。
 常に高慢な態度を崩さなかった彼女が、こんなにも必死な姿を見せるとは思ってもみなかった。
 彼女も——ひとりの母親なのだ。

「私、今までずっとあなたを見下していたのに……」

 鈴子さんは声を震わせながら、私の手をきつく握ったまま続けた。

「死病を出して没落した家の娘だと、心のどこかでバカにしていたわ。それなのに、あなたはこんな私にも優しく……。これまでのこと、謝ります。ごめんなさい」

 深く頭を下げる鈴子さんに、私は静かに首を横に振った。

「お役に立てて何よりでした。それに、これまでのことは、こうして謝ってくださって嬉しく思います。頭を上げてください」

 私がそう言うと、鈴子さんはくしゃりと顔を歪め、また新しい涙をこぼした。

「琴乃さん、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってちょうだいね。今度は私が助けるわ」
「お義姉様、ありがとうございます」

 鈴子さんがもう一度ギュッと手を握り返してくれる。
 つい数日前までまともに目も合わせてもらえなかったのが嘘のようだ。
 眠る冬馬くんを見守りながら、私たちはどちらからともなく小さく微笑み合った。
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