死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 だけどお義母様は口を開かず、しばしのあいだ沈黙が流れる。
 庭では風に揺れる木々の葉が、さらさらと音を立てていた。
 どれくらいそうしていただろうか。やがてお義母様が、庭を見つめたまま静かに話し始めた。

「冬馬のこと、鈴子から聞いたわ。あなたのおかげで、あの子は助かったと」
「いえ、そんな。私は少しお手伝いをしただけで、お医者様の診察があってこそですから」

 そう答えると、お義母様は無表情で小さく首を横に振った。

「謙遜しなくていいのよ。あなたが冷静に動いてくれなかったら、鈴子はもっと取り乱していたでしょう」
「自分の子どもが病気になったら、そうなるのもわかります」

 お義母様の横顔を盗み見ると、これまで目にしたことがないくらい、とても穏やかな表情だった。

「私の孫を助けてくれたこと、感謝するわ」

 まさか、こんな日が来るとは思ってもみなかった。
 あの厳しかったお義母様が、私に頭を下げるなんて……。

「この家で食中毒が起こったときのことも、お礼を言わなきゃとは思っていたの」
「お義母様……」
「あなたをずっと邪険にしていたのに、それでも吐き下して苦しむ私たちを看病してくれたわね。本当にありがとう」
「いいえ。そんな……」
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