死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 私はうなずきながらお義母様の話に耳を傾け続けた。
 自分の中に封印していた苦い記憶が、静かに呼び起こされていく。

「私も……怖かったです」

 気づけば自然とそう口にしていた。
 私の小さな声を拾ったお義母様が、うなずきながらこちらへ視線を向ける。

「ご存じのとおり、私も家族を労咳で亡くしましたから。あのときは本当に怖かった。大切な家族が次々と倒れて弱っていく中で、私は何もできませんでした。医者だった父でさえ、あの病には打ち勝てなくて……」

 声が震えそうになるのを、必死に抑えた。
 消毒液の匂い、ひっそりとしたお葬式、誰もいなくなって静まり返った我が家――。

 必死で看病した日々の記憶が次々とよみがえってきて、激しく胸をしめつける。

「つらかったわね」

 お義母様はそうつぶやくと、静かに目を伏せた。
 ポロリとこぼれ落ちた涙をそっと指で拭っていて、私はそれを目にした途端、驚きを隠せなかった。
 お義母様の泣く姿なんて、これまで一度も見たことがない。

「正直に言うと、あなたが嫁いでくることは反対だった。でもね、冷たい態度を取ったのは、あなたが憎いからじゃないの」

 それは絞り出すような声だった。
 普段は背筋をピンと伸ばし、有無を言わせぬ威厳をまとっているお義母様が、今は幼い子どものように肩をすくめている。
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