死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「労咳が怖かったのよ、ずっと。桐ケ谷先生が立派なお医者様だったことは知っているわ。でも……労咳で亡くなられたと聞いて、血を吐いていた祖父の姿が頭から離れなくなった。頭では、あなたが悪くないことくらいわかっていた。でも、心が追いつかなかったの。あなたを見るたびに、恐ろしかった光景が脳裏をよぎってしまって……」

 言葉を詰まらせながら、お義母様は震える手で次々にこぼれ落ちる涙を拭った。

「情けない話でしょう? ずいぶん昔のことなのにね。いい歳をして、いまだにあの光景に捕らわれているのよ」
「情けなくなんてありません」

 私はお義母様のほうへ身体を向けて、はっきりとそう言った。
 自分を責めるお義母様の言葉が、他人事とは思えなかった。
 私だって、父や母、弟を亡くしたときのことを、今でも時折夢に見る。消毒液の匂いを嗅ぐだけで、沈んだ気持ちになることも……。
 それには時間や年齢は関係ないのだと、私が一番よく知っていた。

「あの病は怖くて当然です。時間が経ったからといって、簡単に消えるものではないと思います」

 私は少し迷いつつも、手を伸ばしてお義母様の手の上に重ねた。
 小刻みに震えている振動が伝わってきて、胸がキュッと苦しくなる。

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