死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「あまり驚いていらっしゃらないんですね」

 私がそう言うと、彼は小さく息を吐き、少し寂しそうな笑みを浮かべた。

「いや……実は、まったく知らなかったわけじゃないんだ。母は昔から、労咳の話になると急に不機嫌になってた。曾祖父の話は、家の中でも一切禁句だった。子どものころ、曾祖父の写真を見つけたことがあって。そのとき何気なく、いつ亡くなったのかを尋ねたら、とても嫌な顔をされた」
「……そうだったんですね」
「それ以上はっきりと聞けなかった。……聞いてはいけない気がして、ずっと避けてた」

 篤志さんは、どこか苦しそうに眉根を寄せた。

「同じ病で家族を亡くした経験を持つ琴乃が、健気にがんばっているのを見て、母も素直に話す気になれたんだろうな」

 さりげないひとことだったけれど、篤志さんに真正面から褒められることには、いつまで経っても慣れない。
 頬が熱を帯びるのを感じながら、私はうつむき加減でふるふると首を横に振った。

 お義母様が私に冷たくあたっていたのは、労咳に対する‟極度の恐れ”があったから。
 そうわかった今、お義母様の気持ちを一番理解できるのは、私なのだと思う。
 そんなふうに考えていると、ふと篤志さんの表情が真剣なものに変わった。

「琴乃」
「はい」
「実は……君との結婚を決めたのには、とある思惑があったんだ」
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