死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 篤志さんは、私をじっと見つめた。
 昼間、お義母様が長年抱えていた思いを打ち明けてくれたときのように、彼も今、何か大切なことを話そうとしているのだと直感した。

(結婚した理由が、同情以外にもあったなんて。それは、もしかして……)

 そんな期待にも似た予感が頭をかすめる。
 私は自然と姿勢を正し、彼の話の続きを待った。

「桐ケ谷先生の娘である君が、この家を変えてくれるんじゃないかと思っていた」
「私が……この家を?」
「ああ。母の労咳への恐怖も、家全体の空気も、俺の力だけではどうにもできなかった。だが、ひとりでも懸命に生きてきた琴乃なら、きっと――」

 彼は彼で、長年思い悩んでいたのだろうか。
 そんな中で、私ならお義母様の心の傷を癒やすことができるのでは……と、白羽の矢を立ててくれたのかもしれない。
 それはとても光栄なのだけれど、胸の奥にチクリと小さな痛みが走った。

(結婚したのは、それだけが理由だったのかしら……?)

 結婚を申し込まれる前——まだ父が闘病しているころから今もずっと、篤志さんはとても優しくて温かかった。
 少しずつ距離を縮め、そっと手を握り、肩を貸してくれて……。
 いつも親身になって寄り添ってくれているのに、それでも不安がよぎってきてしまう。
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