死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 今日は満ち足りた一日だったはずなのに、なんだか胸の奥に隙間風が吹いているみたい。
 誰かにすがりたいわけではないけれど、ひとりでいるとやけに心細く感じられる。

「眠れないのか?」
 
 突然うしろから声をかけられ、私は驚いて振り返った。
 そこに立っていたのは、寝間着姿の篤志さんだった。

「旦那様……すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや。俺もなんとなく眠れなかったんだ」

 篤志さんはそう言いながらこちらへ近づいてくる。私たちは並んで縁側へ腰を下ろした。
 ふたりのあいだに、しばらく沈黙が流れる。

「今日は、いろいろと話しすぎたな」
 
 篤志さんがポツリとつぶやいた。

「母のことも、俺自身のことも」
「お話ししてくださって、嬉しかったです」
 
 私がそう答えると、彼は少し首を傾げるようにして顔を覗き込んできだ。

「少し寂しそうな顔をしていた気がしたが?」

 私は思わず息をのんだ。気づかれていたのだとわかり、恥ずかしくて頬が一気に熱くなってくる。

「それは……」
「いや、すまない。無理に隠さなくていい」

 月明かりの下で、篤志さんが真っすぐに私を射貫いた。その瞳は真剣そのものだ。
 目を逸らせなくて、彼の綺麗な瞳をただ見つめ返すことしかできない。
 
「琴乃、俺は言葉が足りなかったかもしれない」

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