死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「嬉しい。ありがとう、冬馬くん。とっても上手ね」
「ほんと? もっとたくさん折る練習して、今度は百羽くらいあげる!」

 誇らしげに胸を張る冬馬くんの姿に、居間にいたみんなが声を上げて笑った。
 私はその小さな鶴を、そっと両手で包み込むようにしてじっと見つめた。

 お義母様が淹れてくれたお茶と、鈴子さんが持ってきてくれた瑞々しい桃、冬馬くんがくれたかわいらしい折り鶴。
 庭では、冬馬くんが千草さんを連れ出し、鬼ごっこを始めている。

 賑やかな笑い声に包まれながら、私は自然と目を細めた。
 何気ない日常だと言えばそれまでだけれど、これがいわゆる‟幸せな家族の姿”だと思う。
 嫁いできた当初は、こんな光景が見られるとは思ってもみなかった。

(お父様、お母様、千太——。見ていますか。私はようやく、自分の居場所を見つけられたみたいです)

 心の中でそうつぶやき、私は静かに目を閉じた。
 まぶたの裏に浮かんだのは、記憶の中にある、優しかった家族の笑顔だ。
 白衣姿の父、あわただしく登校していく千太、家族を見守る母……。
 みんないなくなってしまったけれど、私の中では今もしっかりと生きている。
 桐ケ谷家での温かな記憶と、天澤家での穏やかな時間が、そっと重なったような気がした。
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