死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 ◇◇◇

 翌日の午後。
 私は篤志さんに誘われ、屋敷の裏手にある小さな百合園を訪れていた。
 天澤家が趣味で育てているという庭園で、今は夏の花々が悠然と咲き誇っている。

「綺麗ですね……」

 白や黄色、淡い桃色の百合が咲き乱れる様子に、私は思わず感嘆の声をあげた。

「母が丹精込めて育てているんだ。琴乃に見せたくてな」

 篤志さんはそう言うと、私の隣に並んで歩き始めた。
 午後のやわらかな日差しが百合の花びらにあたり、美しく光り輝いている。
 風が吹くたび、甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。彼の隣で、こんなにも素敵な庭園を散策できるなんて感無量だ。

「最近、すっかり屋敷の空気が変わったな」

 篤志さんがポツリとつぶやいた。
 その声にはどこか、万感の思いがこもっているように聞こえる。

「千草も、姉も、母も……最近はみんな、笑顔が増えた。琴乃のおかげだ」
「みなさんがご自身で心を開こうとしてくださったからです。私は、特別なことはしていませんよ」

 私がそう答えると、篤志さんは足を止めて真っすぐ私を見つめた。
 その瞳は、どこか緊張しているような色が浮かんでいる。

「琴乃」
「はい」
「少し、聞いてほしい話がある」

 真剣な声音に、私も自然と背筋を伸ばした。
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