死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
百合の香りが、ふわりと風に乗って漂ってくる。
彼のこんなに硬い表情を見るのは、嫁いできてから初めてかもしれない。
何を言われるのだろうと、彼の緊張が私にも移り、胸の奥がざわざわとした。
「俺が琴乃に結婚を申し込んだとき……実は本当のことを、すべて話したわけじゃなかったんだ」
「本当のこと、ですか」
「ああ。桐ケ谷先生から俺宛てに、娘をよろしく頼むという手紙をもらっていただろう?」
「はい」
「だが、結婚を決めたのはそれだけが理由じゃない」
篤志さんは一度言葉を切ると、少し照れくさそうに視線を逸らした。
いつも堂々としている彼がそんな顔をするのは珍しくて、私は呆然としてしまう。
「天澤製薬は、桐ケ谷醫院に昔からずっと薬を卸していた」
「ええ、大変お世話になっていました。父が生きていたころ、旦那様が醫院のほうへよくいらしていたのを覚えています」
当時のことを思い出しながら、私はゆっくりとうなずいた。
篤志さんは若くして天澤製薬の社長を継いだ身でありながら、薬の納品のたびに颯爽と屋敷へ現れては、父と難しい医学の話をしていた記憶がある。
「訪問した際、何度もお茶を出してくれたよな?」
「あ、そうでしたね」
彼のこんなに硬い表情を見るのは、嫁いできてから初めてかもしれない。
何を言われるのだろうと、彼の緊張が私にも移り、胸の奥がざわざわとした。
「俺が琴乃に結婚を申し込んだとき……実は本当のことを、すべて話したわけじゃなかったんだ」
「本当のこと、ですか」
「ああ。桐ケ谷先生から俺宛てに、娘をよろしく頼むという手紙をもらっていただろう?」
「はい」
「だが、結婚を決めたのはそれだけが理由じゃない」
篤志さんは一度言葉を切ると、少し照れくさそうに視線を逸らした。
いつも堂々としている彼がそんな顔をするのは珍しくて、私は呆然としてしまう。
「天澤製薬は、桐ケ谷醫院に昔からずっと薬を卸していた」
「ええ、大変お世話になっていました。父が生きていたころ、旦那様が醫院のほうへよくいらしていたのを覚えています」
当時のことを思い出しながら、私はゆっくりとうなずいた。
篤志さんは若くして天澤製薬の社長を継いだ身でありながら、薬の納品のたびに颯爽と屋敷へ現れては、父と難しい医学の話をしていた記憶がある。
「訪問した際、何度もお茶を出してくれたよな?」
「あ、そうでしたね」