死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「琴乃をこの家に迎えたのは、俺自身がずっと前から望んでいたからだ」

 こらえていた涙が、ついにポロリと頬を伝って流れ落ちた。
 父が手紙を出して私のことを頼んだために、彼は仕方なく引き取ってくれただけ……。そのため、私に愛情があるなんて、微塵も期待してはいけないと思っていた。
 だけど、心にあったその寂しさが、彼の今の言葉ひとつで跡形もなく溶けていった。
 それと同時に、あのころの自分が篤志さんの中で大切な記憶として残り続けていたのだと知り、心の底から愛おしさが込み上げてくる。

「私……」

 何か言わなきゃと声を出してみたけれど、震えてしまってうまく言葉にならない。
 それでも私は、ひと呼吸おいてゆっくりと自分の気持ちを口にした。

「私もです。いつからか……旦那様のことを……」

 話している途中で恥ずかしくなり、頬が熱を帯びた。
 だけどここで言葉を止めるわけにはいかない。私は深く息を吸い、勇気を振り絞った。

「思い返してみると……父の醫院にいらしていたころから、旦那様のことは特別な方だと感じていたのだと思います。父と話すときはいつも真剣で、凛としていらして……お茶をお出しするたびに、実は胸が高鳴っていました」

 私がそう言うと、篤志さんはハッと目を見開いた。
 まさか私がこんな告白をすると思っていなかったのだろう。
< 143 / 151 >

この作品をシェア

pagetop