死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「結婚の話が出たときは、正直とまどいのほうが大きかったです。でも、憧れだった旦那様のお人柄に少しずつ触れていくうちに、私は旦那様のことをもっと知りたいと思うようになっていました」

 あの宴席の帰り、車の中で手を握られたとき——。
 千草さんと本屋へ行った日、人目を忍んで指を絡めてくれたとき——。
 そしてあの夜、庭先で額を合わせて甘く見つめあったとき――。
 そのたびに、彼にもっと近づきたいと思う自分がいたのはたしかだ。

「桐ケ谷の娘としてでも、政略結婚した妻としてでもなく、私は心から旦那様をお慕いしています」

 私は震える声で精一杯、はっきりと自分の気持ちを告げた。
 すると篤志さんはしばらく言葉を失い、まばたきを繰り返しながら私を見つめていた。
 だけどその瞳が、しだいにやわらかく細められていく。

「……琴乃」

 彼の大きな手が、優しく私の頬に触れた。
 ポロポロとこぼれ落ちる涙を、彼が親指でそっと拭う。
 その手のひらの温もりに、このままずっと触れていてほしいと思うくらいの安心感を覚えた。

「もう一度、言ってくれるか?」
「え……?」
「さっきの言葉。琴乃の口から、もう一度聞きたい」

 彼の懇願するような声音に、私は感動してどうしようもなく胸が震えた。
 涙で濡れた瞳のまま、真っすぐに彼を見上げる。
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