死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 彼の胸に頬を寄せながら、規則正しい心音に耳を澄ませる。
 これから先もずっと、彼がそばにいて寄り添ってくれるのだと考えただけで、心が満たされた。
 これまで感じてきた孤独も、不安も、すべてがこの温もりの中に溶けて昇華されていく。

「琴乃」

 しばらくして、篤志さんが私の名前を呼んだ。
 顔を上げると、彼はズボンのポケットから小さな箱を取り出した。

「横浜で取り寄せた舶来品なんだが、ずっと渡す機会をうかがっていた」

 差し出された箱を開けてみると、中には繊細に細工された指輪が入っていた。
 中央に輝くのは、澄みきった深い青色の宝石――サファイアだろうか。
 うっとりと眺めてしまうほど、美しい輝きを放っている。

「これは……」
「政略結婚みたいに始まった俺たちの関係を、今日ここで終わらせたい」

 篤志さんは私の左手をそっと握った。
 
「琴乃、あらためて言わせてくれ。俺と、本当の夫婦になってほしい」

 その言葉を聞いた瞬間、再び涙腺が緩んだ。
 彼がそんなふうに想っていてくれたとわかり、嬉しくて仕方ない。

「家がどうとか、関係ない。ただそばにいてほしいだけだ。これから先の人生、俺は琴乃をずっと守っていきたい。喜びも、悲しみも、全部一緒に分かち合いたいんだよ」
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