死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 篤志さんが箱の中から指輪を取り出し、私の左手薬指にはめた。
 これが夢なら醒めないでほしいと思ってしまう。

「あの……」

 すぐに声が出なくて、私は代わりにコクコクと何度もうなずいた。

「……私も、旦那様と、本当の夫婦になりたいです」

 返事を聞いた彼は、心から安堵したように表情を緩めた。

「ありがとう、琴乃」

 彼はそう言うと、私の額に、そして頬に、最後にもう一度唇に口づけをした。
 その優しい仕草の一つひとつに、きちんと愛情が込められていると感じて、私の胸が温かいもので満たされていく。

「これからも、よろしくお願いします。……篤志さん」

 初めて彼を名前で呼んだ。
 その瞬間、彼は目を見開き、とびきり照れた笑みを浮かべた。

「ああ。こちらこそよろしくな。君は俺の大切な妻だ」

 百合の香りに包まれながら、私たちはもう一度唇を重ねた。

 もう恐れるものは何もない。
 この人がそばにいてくれるなら、これから先どんなことがあっても、きっと乗り越えていける。
 そう心から思えることが、今の私にとって何より幸せだった。

 ――百年経っても、この手を離さない。

 薬指に輝く指輪と、彼の笑顔を見つめながら、私は幸せに酔いしれた。
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