死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
エピローグ
 百合の咲く庭園でのあの日から、季節はゆっくりと移ろっていった。
 夏の盛りが過ぎ、屋敷の庭に彼岸花が顔を出すころには、頬を撫でる風が初秋ものに変わっていた。

「お義姉様、聞いて! 今度、天澤製薬でお兄様のお手伝いをさせてもらえることになったの」

 居間で顔を合わせたとき、千草さんが弾んだ声でそう報告してくれた。
 庭先で本音を打ち明けてくれたあの日から、彼女は少しずつ、自分の望む道を歩き始めている。

「まあ! 良かったですね。千草さんならきっと旦那様のお力になれますよ」

 熱心に本を読んでいる彼女に、篤志さんが「試しに、少しだけ手伝ってみるか」と声をかけたそうだ。
 最初は書類整理のような簡単な仕事からだけれど、千草さんは外で働けると思うだけでワクワクすると、嬉しそうに話してくれた。

「お義姉様のおかげよ。あのとき、本を買ってもいいって言ってくれたから」

 照れくさそうに笑う千草さんの姿を見て、燃やされた本のことは、もうすっかり過去のものとして水に流せたと実感した。

 鈴子さんも、以前と同様に、冬馬くんを連れて頻繁に屋敷を訪れている。
 井原家との関係も、最近は風通しが良くなったと、鈴子さんは晴れやかな顔で話してくれた。
 冬馬くんは相変わらず私を見つけるたびに「おば様!」と駆け寄ってきては、折り紙や絵日記を見せてくれる。今では癒やしの存在だ。
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