死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 だが、三日後。事件は突然起こった。

 この日は、離れを借りて着物の虫干しをしていた。午後になって干していた着物を畳み、箪笥にしまって母屋へ戻ってきたのだけれど……。
 中庭のほうで煙が上がっていることに気づき、何事かと足を向けた。

 一瞬、火事かと思ったけれど、そうではなかった。
 庭の地面に積まれて火を出していたのは数冊の本。
 一番上には見えたのは——私が篤志さんから借りたものだった。
 それがわかった瞬間、あわてた私は履物もはかずにそのまま飛び出し、素手で燃えている本に触れて火を消した。
 
「ど、どうしてこんなことに……」

 すぐに消火したつもりだったが、どの本も半分くらいは燃えて灰になってしまっている。
 篤志さんから借りた本の下から出てきた残骸は、私の父が残した本だった。
 一瞬、頭の中が真っ白になる。父の声、父の匂い、父が笑いながらこの本を手渡してくれた記憶――そのすべてが、灰と一緒に崩れていくような気がした。

 愕然とした私は、着物が汚れるのもいとわず、その場にへたり込んだ。
 どうしょう……。全部の本が、もう読めるような状態ではない。そう気づいた瞬間、指先の痛みよりも心の深い場所が、ずきずきと痛んだ。

「……琴乃? いないのか?」

 不意に聞こえてきたのは篤志さんの声だった。今日は早めに仕事から戻ったみたいだ。
 庭にいたら車のエンジン音が聞こえたはずなのに、こんな状況だから気づかなかった。
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