死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「そんなところで何してるんだ」

 中庭の地面に座り込んだ私に気づき、彼が血相を変えて飛んできた。
 彼の端正な顔が、驚愕と共に、信じられないと言わんばかりに歪んでいく。
 無理もない。黒焦げになった本の残骸を愛おしそうに抱きしめる私は、さも異様に映っただろうから。
 
「すみません。本が……燃えていて……」
「何だ、これは。いったい誰がこんなことを」

 そう言いつつ、彼には事の全容がわかっているようだった。
 ゆっくりと私を立たせながらも、瞳には怒りの炎が灯っている。

「桐ケ谷先生の形見の本まで……」
「いいんです」

 本当は少しもよくはなかった。だけどこれ以上騒ぎになれば、篤志さんと家族の関係がさらに悪くなってしまう。それだけは避けたくて、私は痛みを飲み込むように小さな声で答えた。

「いいわけがないだろう。母上! 姉さん! 千草!」

 そういえば、今日は義姉の鈴子さんが来ていたことを思い出した。
 彼が中庭から声を張り上げると、しばらくして渋い顔をした三人がやってくる。

「大きな声を出してどうしたのよ」

 あきれたようにそう言ったのは、鈴子さんだった。
 三人とも燃えた本を見ても、まったく驚いていない。みんなこのことを知っていたのだ。

「火をつけたのは誰だ?」
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