死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 篤志さんが三人に鋭い視線を送りながら尋ねると、すっと一歩前に出たのは、鈴子さんではなく千草さんだった。

「私がやった。……最近、琴乃さんが夢中で本を読んでるって女中から聞いたの」
「だからってなぜ燃やす?」

 篤志さんから冷静に問い詰められても、千草さんの仏頂面は直らなかった。
 イタズラにしては度が過ぎていると思うが、彼女に反省の色は見られない。

「お兄様の大事な本を漁るなんて。……ずっと一緒に暮らしてる私でも読んだことないのに」
「読みたいならそう言えばいい。見向きもしなかったのはお前のほうじゃないか」

 正論を突きつけられた千草さんは、不満を露わにしたままフンと顔を背け、きつく下唇を噛みしめていた。
 その表情には悔しさと反発心が入り交じっている。
 
「女に学問は必要ないでしょう。良妻賢母になるほうが大事って、亡くなったお父様もそう言ってたわ!」
「良家の子女としての振る舞いを身につけるのも大事だと、父上は説いていたはずだが? これが伯爵令嬢のすることか?」

 こんなふうに真っ向から断罪されるとは思わなかったのだろう。
 篤志さんの声が少々大きくなると、千草さんはみるみるうちに顔を引きつらせ、大きな瞳に大粒の涙をいっぱいに溜め始めた。
 だけど彼女はわなわなと唇を震わせながら、私を激しく睨みつけている。
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