死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「やめなさいよ。たかが本でしょう。また買えばいいじゃないの」

 あきれた声で割って入ったのは鈴子さんだった。
 くだらない兄妹喧嘩をするなと言わんばかりで、どうやら千草さんをかばうつもりのようだ。謝らせる気もないらしい。
 
「俺の本だけならそれでもいい。琴乃にとって大事な、お父上の形見の本も燃やされたんだ。黙っていられるか」
 
 反論された鈴子さんは、些細なことで妹を責める彼の態度が気に入らないのか、不快感をあらわにして顔をしかめた。
 自分たち家族が責められているという事実そのものが許せないのかもしれない。

「篤志は没落した家の娘に感化されすぎじゃないかしら」

 それまで一歩引いた場所で冷ややかに事の顛末を眺めていたお義母様が、満を持したように前へ進み出た。
 有無を言わせぬ威圧的な声音に、私は一瞬で背筋が凍った。

「労咳患者が持っていた本なんだから、燃やされても文句言えないでしょう」
「母上!」
 
 声を上げた篤志さんを気に留めることなく、お義母様はひどく冷淡な視線をこちらへ向けた。それはまるで、屋敷の美観を損ねる不浄なものでも見ているかのようだった。

 父も、母も、千太も、外からはこんな目で見られていたのだ。
 込み上げてきたのは怒りよりも、深い悲しみだった。喉の奥が焼けるように熱くなって、うまく声が出せない。
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