死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 煤を完全に拭い去ったあと、彼は救急箱から軟膏を取り出し、指先で優しく患部へ塗り広げていった。
 そして彼は私の手を包み込むようにして、ゆっくりと包帯を巻いていく。

「あの、旦那様に手当てさせてしまってすみません」
「謝るのは俺のほうだ。……けがをさせた」
「そんな! 旦那様のせいではありません。ヤケドはすぐに治ります」
「それだけじゃない。千草は許されないことをした。兄として謝罪させてほしい」

 そう言って、篤志さんは私の目の前で頭を深く下げた。
 驚いた私は恐縮してしまい、混乱してどうしたらいいかわからなくなる。

「だ、旦那様! どうぞ顔を上げてくださいませ」

 包帯を巻かれたばかりの手の平を前に突き出し、オロオロするしかなかった。
 そんなに苦しそうな顔をしないでほしいという思いが溢れて胸が締めつけられる。
 彼にここまでの罪悪感を背負わせてしまっていることが、私には何よりつらかった。

「さっき、私の味方になってくれて、ありがとうございました。うれしかったです」

 篤志さんはゆっくりと顔を上げたものの、表情は晴れないままだ。いたたまれなさが色濃く滲み出ている。
 彼はきつく唇を真一文字に結び、煤で汚れた着物の袖をそっと見つめた。

「明日、着物を買いに行こう」
「あ、いえ、大丈夫です。これは普段着ですし、煤の汚れは落ちると思うので……」
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