死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「実は来週、取引先の宴席があるんだ。琴乃も連れて行く」
「……そういうことでしたら」

 私は小さく息をのみ、コクリとうなずいた。
 宴席の場で妻として紹介されるのだと理解した瞬間、私の背筋に緊張が走る。
 名だたる名士や実業家たちが集まるであろう大層な場所で、没落した家の出である私が、天澤家の嫁として堂々と出席していいのだろうか。
 不安はつきまとうけれど、逃げ出すわけにもいかない。私は胸の内で覚悟を決めた。

 翌日。私は篤志さんと共に、新しい着物を仕立てるために呉服屋へ出かけた。
 屋敷の前に待機していた車へ乗り込むと、運転手が静かにドアを閉め、車体がゆっくりと動き出す。
 見慣れた屋敷の門が遠ざかり、窓の外が賑やかな都心の景色へ移り変わっていった。

「格式高い店だが、気後れする必要はないから」

 隣に座る篤志さんは、包帯が巻かれた私の手を時折気遣わしげに見つめながら、そう声をかけてくれた。

「ありがとうございます」

 車は老舗の呉服屋が軒を連ねる街へと進んでいく。私たちはとある店舗の前で、静かに車を降りた。
 たしかに立派な店構えで、彼の言うとおり格式は高そうだ。

「これはこれは天澤様。今日はどんなご用向きでございますか?」
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