死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 店主と思わしき男性が篤志さんの来店に気づき、わざわざ奥から出てきて対応してくれた。
 私は篤志さんの一歩うしろに控えつつ、小さく会釈をして店の中を見回してみる。

「妻に似合う最高のものを見立ててくれ」
反物(たんもの)ですか?」
「いや、今回は急いでるんだ。仕立ててあるもので頼む」
「承知いたしました。奥様は肌がお綺麗ですから、どんなものでもお似合いになりますよ。その中でも私が上等なものをお選びいたします」

 店主が手で合図を送ると、手代たちが手際よく奥の部屋から次々と衣装箱を運び込んできた。
 促されるままに、私も篤志さんの隣で座布団に腰を下ろすと、目の前の広大な畳の上に色鮮やかな着物が一斉に並べられていく。

 目の覚めるような京紅色、上品な藤色、瑞々しい若草色……。
 しっとりとした極上の絹地に、繊細な刺繍が施された訪問着や振袖の数々は、まるで美しい花々が一斉に咲き誇ったかのようだ。

 私は緊張も忘れてすっかり目を奪われ、ウキウキと心を弾ませた。

「琴乃はどれがいい?」
「わ、私は……」

 優しく問いかけられ、私はハッと息をのんで我に返った。
 目の前に広がっているのは、職人の技が光る最高級の着物ばかり。
 だけど私は没落した身。天澤家でも歓迎されていないというのに、高価なものを買ってもらうのは気が引けた。
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