死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 本当は、目の前の色鮮やかな数々の着物に胸が高鳴っていた。
 だけど贅沢を望んではいけないと、幼いころから身についた倹約癖がつい出てしまう。
 私はそれらから視線を外し、渋い色合いの極めて簡素な着物に目を留めた。この中ではおそらく最も手頃なものだとひと目でわかったから。

「あの……こちらの落ち着いたお着物で十分にございます……」

 私は包帯の巻かれた手で、その地味な着物を指さした。

「それはダメだ。来週の宴席では、俺の妻として同席するのだから。もっと見栄えのいいものでないと」
「……そうですよね。すみません」

 そうだった。これはただの‟買い物”ではなかった。

 私がみすぼらしい身なりをしていたら、恥をかくのは篤志さんだ。それをすっかり失念していた私は、なんておろかなんだろう。

 自分の浅はかさにいたたまれなくなってシュンとしていたら、隣からかすかな笑い声が聞こえて顔を上げる。篤志さんは端正な顔を和らげて苦笑していた。その表情で、私を責めているのではないとわかる。

「謝る必要はない」

 私がうなずくと、彼は控えていた店主に向けて目線で合図を送った。

「こちらはいかがでしょう?」

 手代がうやうやしく捧げて持ってきたのは、深く艶やかな紺色の着物だった。
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