死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 店主がそれを、姿見の前に移動した私の肩へと滑らせる。今にも大空へ飛び立たんとする白鶴が描かれていて、格式高い一着だ。
 
「……ほかには?」
「そうですね。こちらもお似合いかと」

 店主はすぐにしっとりとした藤色の着物を選び、私の肩へと重ねた。

「長寿吉兆を願う亀甲文様が細やかに織り込まれております」

 上品で大人びた雰囲気だなと見惚れていると、篤志さんは「……ほかを」と低い声で指示をした。

「では、こちらはどうでしょう。鮮やかな萌黄色に、おめでたい松竹梅が大胆にあしらわれた一着でございます。若々しい奥様にはぴったりかと」

 黄緑に近い萌黄色も綺麗だったけれど、それを見つめる篤志さんの視線は険しいままだ。

「悪くはないが……これではないな。ほかには?」

 彼を唸らせる一着はどれかと、店主の額にうっすらと汗がにじむ。
 店主は意を決したように手代に強く目配せをして、奥にあった衣装箱を開かせた。

「……ならば、あとはこちらですね」

 私の肩に滑り込んできたのは、温かみのある紅梅色の訪問着だった。
 大輪の牡丹が裾に向かって華やかに描かれていて、先ほどの紺色や藤色とは違い、私の頬をふわっと桜色に染め上げるような可憐さと気品がある。
< 57 / 151 >

この作品をシェア

pagetop